イタリアで働く料理人・シェフ完全ガイド|求人・生活・ビザ情報

イタリアの求人市場の傾向~イタリアで求められる寿司職人・料理人

イタリアでは和食ブームが持続しており、求人も大都市を中心に増えています。
かつて日本食レストランはローマやミラノなど限られた都市に集中していましたが、近年は地方都市にも広がりを見せ、裾野が拡大しています​。人気の都市はやはりミラノとローマで、日本食レストランの数や質ともに国内トップクラスです。またフィレンツェやヴェネツィア、トリノなど観光客や現地富裕層が集まる街でも和食店が増えています。

需要が高いジャンル

需要が高いジャンルとしては、まず定番の寿司が挙げられます。
寿司バーや日本式居酒屋は多数存在し、刺身・寿司から天ぷら、焼き鳥まで提供する店もあり、本格的な和食が気軽に楽しめると評判です​
加えて、近年はラーメンの人気も急上昇しています。例えばフィレンツェでは日本人シェフが調理するラーメン専門店が登場し、週末には行列ができるほどの盛況です。
このように、寿司に限らずラーメンや居酒屋料理、家庭料理まで多様な和食スタイルが注目されています。

求められるスキル

求められるスキルも業態により様々です。
高級寿司店では魚の目利きや握りの技術など本格的な寿司職人の経験が重宝され、一方でカジュアルな和食店では幅広い調理経験と創意工夫が評価されます。ミラノのある和食店の求人では「和食に限らず調理経験者は歓迎」とされており、情熱と創造性を持って新しいメニュー開発にも挑戦できる人材が求められていました​。

総じて日本で培った調理スキルや和食への深い知識は大きな強みとなります。
さらに現地スタッフやお客様とのコミュニケーションのため、簡単なイタリア語や英語力があるとなお良いでしょう​。

参考:
・日本貿易更新機構:ポポロ屋 (ミラノ/イタリア) : 和食の魅力を広める“シロー”こと、平澤稔氏のミラノ初の“すし場”
・ITALIANITY:イタリアにラーメンブームが到来!【小林真子のイタリア通信】
・ミラノ掲示板:ミラノでアシスタントシェフを探しています!
・note:一料理人、イタリアで初めての職場へ

給与・待遇の相場

イタリアの料理人の給与水準は、日本と比べるとやや低めですが生活コストも踏まえて検討する必要があります。
一般的なシェフの平均月給は約€1,700(約25万円)程度で、総支給(月額)では€1,850(約27万円)ほどと推定されています。日本円では年収にして約250万~300万円前後が一つの目安です​。
もちろん経験やポジションによって幅があり、一流店の料理長クラスになれば月€2,500以上(約40万円、年収400万~500万円)を得る例もあります。

イタリアの給与には法律で定められた13カ月目の給与(ボーナス)があり、年末に1か月分の給与が追加支給されます。企業によっては夏季休暇前に14カ月目の給与が出る場合もあります。これらは業績に関係なく支給が義務付けられているため、日本の賞与とは性格が異なり、安定した収入の一部として計算できます。

また、フルタイムで正規契約の従業員となれば、給与からは社会保険料や税金が天引きされます。所得税は累進課税で収入額によって異なりますが、手取りは総支給のおよそ7~8割程度になることが多いです(社会保険料控除により手取り額がかなり減るため)。例えば月給€1,700のケースでは、手取りは€1,300前後(約20万円)になると見込まれます。

チップ

チップに関しては、イタリアでは基本的にチップの習慣はありません。
レストランでは会計時にサービス料(Coperto)が含まれていることが多く、請求額さえ支払えば問題ないのが一般的です​。良いサービスを受けた際に端数を切り上げたり、数ユーロをお心付けとして置いていくお客もいますが、アメリカのようにチップ収入が給与の大部分を占めることはなく、収入の主軸は給与となります​。
そのため雇用契約時には、基本給や手当で生活できる水準が確保されているかを確認することが重要です。

福利厚生

福利厚生面では、正規雇用であれば国民健康保険(SSN)への加入資格があります。
在留外国人であってもSSNに加入すれば、指定のかかりつけ医(家庭医)の診療や公立病院での治療を保険診療として受けることができます。保険加入者の自己負担はごく低額で済み、基本的な医療サービスは無料同然で受けられるのが特徴です(ただし公立病院は常に混雑しており、待ち時間が長い傾向があります​)。

このほか、有給休暇は年4週間程度が法律で保障され、夏季休暇中にはレストラン自体がまとまった休業を取ることも珍しくありません。
イタリアは長期休暇を重視する文化があり、8月半ばのフェラゴスト(聖母被昇天祭)を含む2~3週間ほど店を閉める飲食店も多いです​。その間は従業員もしっかり休暇を取れるため、オンとオフのメリハリをつけて働ける環境と言えるでしょう。

参考:
・GRASSDOOR:How much does a Chef make in Italy?
・公共社団法人日伊協会:坂本鉄男 イタリア便り 13カ月目の給与
・Amebけちけちイタリア徒然日記:甘辛い生活ややこしい給料計算
・SOL LEVANTE TOUR BLOG:【イタリアのチップ事情】ホテル・レストラン・タクシーのチップの相場は?スマートな渡し方や裏技も解説
・adomani:イタリアのレストランでチップを払う人ってどれくらい?
・外務省:イタリア
・ITALIANITY:8月15日はフェラゴストの祝日!どんな祝日?

ビザ制度と申請の流れ

日本人料理人がイタリアで働くには、適切な就労ビザを取得する必要があります。
一般的な方法は、雇用主スポンサー型の就労ビザ(Visa per lavoro subordinato)です。まずイタリア側の雇用主があなたを雇用する契約を結び、その上でイタリア入国管理当局に労働許可(Nulla Osta)の申請を行います​。
この労働許可は政府が毎年定める労働者受け入れ枠(フルッシ Decreto Flussi)の中で発給され、2024年は全体で15万1,000人分の枠が設定されています​。

幸いなことに、和食シェフを含むレストラン従業員は人手不足が指摘される職種に含まれており、労働許可が比較的取得しやすい分野です​実際、イタリア政府は接客業や調理分野で外国人労働者の受け入れを推進しており、レストラン関連職は就労ビザ取得の有望職種の一つとなっています

雇用主による労働許可が下りた後、日本の在イタリア大使館または領事館で就労ビザ申請を行います
この際には労働許可証、雇用契約書、その他必要書類を提出し、ビザの発給を受けます。
ただし発給されるのは入国ビザであり、イタリア到着後に滞在許可証(Permesso di Soggiorno)への切り替え手続きを行う必要があります。入国後8日以内に郵便局等で滞在許可申請を行い、指紋採取などを経て正式な労働滞在許可が得られます。
この許可証を取得して初めて合法的に就労・居住が可能となる点に留意しましょう。

就労ビザ以外にも、いくつか取得可能なビザの種類があります。

ワーキングホリデー(Working Holoday)ビザ

ワーキングホリデー(Working Holiday)ビザは18~30歳までの若者が最長1年間イタリアで滞在・就労できる制度で、日本国籍であれば年間発給枠の制限なく申請可能です
ただし滞在期間が限られ延長不可なため、長期的な就労には向きません。学生ビザを取得し語学学校や料理学校に通いながら、週20時間までのアルバイト勤務を行うという道もあります​。
実際に語学留学ビザでイタリアに滞在し、研修先のレストランで経験を積んだ後に就労ビザへ切り替えた事例もあります。
このルートでは、在学中は労働時間に制限がある点や学費が必要になる点に注意が必要です。

家族帯同

家族帯同については、就労ビザで渡航する本人がイタリア到着後に一定の条件を満たせば、配偶者や子の家族再会ビザ(Ricongiungimento Familiare)を申請することが可能です。
条件としては十分な居住スペースの確保と安定収入(扶養家族人数に応じた最低年収)が求められます。
一般的に就労許可を得て滞在許可証が発行された後、数ヶ月働いて所得証明ができる状態であれば家族招致の手続きを進められるケースが多いです。

もっとも、ビザ申請から認可まで時間がかかることもあり、家族の合流には計画的な準備が必要となります。
なおワーキングホリデーの場合はあくまで個人の休暇が目的のビザであり、家族帯同は認められていません。
長期的に家族と生活する意向がある場合は、正規の就労ビザ経由で帯同ビザを取得するのが現実的でしょう。

参考:
・note:一料理人、イタリアで初めての職場へ
・World Avenue:対象22カ国を比較!ワーキングホリデー行くならどこがいい?
・Forbs:2024年にイタリアで働くには? 労働許可が下りやすい9つの職種

イタリアでの生活情報

海外で働くにあたり、現地の生活環境も知っておきたいポイントです。
まず物価ですが、イタリアは近年インフレ傾向があるものの、日常的な食品や日用品の価格は日本と同程度かやや安い印象です。
一杯のエスプレッソが€1(約160円)前後で飲めるのはイタリアならではで、パンやパスタなど主食系も安価です。

一方で肉や魚、新鮮な野菜果物は品質に比例して値段もそれなりですが、市場(メルカート)を利用すれば比較的安く手に入ります。
また外食費もピンキリですが、庶民的なトラットリアでパスタ一皿€8~€12程度、ピッツァなら€6~€10程度が相場でしょう。日本料理店はやや高級な外食に分類され、寿司や刺身を提供する店では一人あたり€30~€50程度の支出も珍しくありません。
イタリア人にも健康的で新しい食文化として和食が浸透しつつあり、高くても良い和食を食べたいというニーズが確実に存在しています。

住居事情

住居事情については、都市か地方かで大きく異なります。
一般的に北部の大都市ほど家賃は高騰しており、ミラノやローマではワンルームでも月€800~€1200(約13万~20万円)ほど、中心部の新築物件では€1500超えもあります​。
例えばミラノでは1LDKで平均€1,700(約27万円)というデータもあります​

反面、地方都市や郊外では家賃相場が大きく下がり、ワンルームで€500~€700程度、ルームシェアなら€300台も見つかります​。
光熱費は電気・ガス・水道代合わせて月€50~€100程度が目安ですが、冬場の暖房費は地域によってかさみます。物件を借りる際は通常1~3か月分のデポジット(敷金)が必要で、不動産仲介手数料も家賃1か月分ほど発生します。
イタリアは契約関連の手続きが煩雑なので、現地の知人や不動産エージェントにサポートを依頼すると安心です。

日本食材の入手

日本食材の入手については、大都市であればほぼ問題ありません。
ミラノやローマには日本食料品店やアジア系スーパーが存在し、醤油、みりん、味噌といった基本調味料から米、豆腐、納豆、カレールーまで入手可能です。
値段は日本の2~3倍するものもありますが、それでも手に入る安心感は大きいでしょう。
特に寿司ブームのおかげで米・海苔・醤油はもはや一般スーパーでも売られる必需品となっており、天ぷら粉やパン粉などもよく売れているようです。

地方でもオンライン通販を利用すれば日本食材を届けてくれるサービスがあります。
また、日本食レストランで働くなら仕入れ経路が社内にある場合も多いので、自炊用に分けてもらえることも期待できます。

交通事情

交通事情は、日本に比べると公共交通機関の時間の正確さや本数では劣るものの、概ね不自由はありません。
ローマやミラノなど主要都市には地下鉄・バス・路面電車などが発達しており、市内移動は月定期券(€30〜€40程度)を買えば安価に済みます。
タクシーは割高ですが、市街地には流しのタクシーも多く深夜の足として利用できます。都市間の移動は鉄道が便利で、特急のフレッチャロッサを使えばミラノ〜ローマ間も3時間弱です。

ただしイタリアの列車はストライキ等で遅延・運休も起こり得るため、移動計画には余裕を持つことが大切です。
車については、イタリアは右ハンドル・右側通行で日本と勝手が違います。運転マナーも日本より荒いことがあり、大都市では駐車も困難なので、基本的には公共交通+徒歩で生活できるエリアに住む方が快適でしょう。

医療・健康管理

医療・健康管理に関しては、前述の通り国民健康保険に加入すれば公的医療が受けられます。
外国人でも居住許可があれば地域の保健所で登録して保険証を取得できます​。公立の医療機関は無料もしくは低額で利用できますが、混雑や言葉の問題もあるため、必要に応じて私立病院やクリニックを使うことも検討しましょう(私立は英語が通じやすい傾向があります​hcpg.jp)。

処方薬は基本的に医師の処方箋が必要ですが、薬局で風邪薬や鎮痛剤程度なら市販品を購入可能です。
なおイタリアは家庭医制度があり、まず登録した家庭医に相談して必要に応じ専門医や病院を紹介してもらう流れです。
健康維持のためにも、信頼できる家庭医を近所に見つけておくと安心です。

治安

治安については、イタリアは欧州の中でも比較的治安が安定しており、命に関わるような危険は少ないです。
ただし日本に比べるとスリや置き引きなどの軽犯罪は格段に多いため注意が必要です。特に観光客が多いローマ、フィレンツェ、ミラノの中心部では日本人もスリの被害にあいやすく、現金やパスポートを盗まれる例が後を絶ちません​。
外出時は必要最低限の持ち物にし、大金や貴重品は持ち歩かない習慣をつけましょう。南イタリアのナポリやシチリアではバイクによるひったくりも報告されています​。

幸い暴力目的の犯罪に巻き込まれるケースは稀ですが、防犯意識は常に持って行動することが肝心です。
夜間に一人で出歩かない、人混みではバッグを前に持つなど、基本的な自衛策を心がけてください。

参考:
・Genspark:Current Spending Trends at Japanese Restaurants in Italy: A 2024 Overview
・NewsWeek:欧州グリーン住宅指令に反対のイタリア、ミラノの住宅事情
・フィレンツェのガイドなぎさの便り:いい賃貸物件がない!
・La Quarta:イタリアへの移住費用の相場|移住前から移住後の費用の内訳を徹底解説
安全の手引き

職場文化と文化的な注意点

イタリアの職場文化は、日本とかなり異なる部分があります。
まず言語の問題として、イタリア語の習得は避けて通れません。現場の同僚やスタッフはイタリア人が大半であることが多く、彼らは英語をあまり話さない場合も多いです。
料理の専門用語や指示出しもイタリア語が基本となるため、最低限のイタリア語会話力があるとスムーズに仕事を進められます。
「イタリア語が不慣れで、面接交渉が難航した」という日本人料理人の体験談もあり​、渡航前から語学学習に取り組む価値は大いにあります。

一方で、高級店では英語が通じるスタッフもいますし、観光地の店なら英語対応も可能な場合があります。
ただ厨房内のコミュニケーションや細かなニュアンスはやはりイタリア語でできた方が信頼関係を築きやすいでしょう。
英語はあくまで補助ツールと考え、現地の言葉で伝える努力をする姿勢が大切です。

職場の習慣

職場の習慣も日本とは異なります。
イタリアの職場はフラットでフレンドリーな人間関係を重視する傾向があります。上下関係はありますが、日本のような厳格な上下関係や敬語の文化は薄く、シェフ同士やシェフとスタッフも名前で呼び合い、冗談を交わすような光景が見られます。
もっとも料理の世界ですから厨房のヒエラルキー自体は存在し、シェフ(Capocuoco)やスーシェフが指示を出し、各担当(パスタ担当、アンティパスト担当など)が動く体制は整っています。

ただし理不尽な怒号や長時間のしごきのようなことは法的にも許されず、過度なパワハラは訴訟リスクが高いため起こりにくいです。むしろチームワークを重視し、皆でサービスを成功させようという意識が強いので、初めはうまく言葉が出なくても笑顔で積極的にコミュニケーションを図れば可愛がってもらえるでしょう。

労働環境

労働観の違いとして特筆すべきは、仕事と私生活のバランスに対する考え方です。
イタリア人は「仕事のために生きる」のではなく「生きるために働く」というマインドが強く、家族や自分の時間を非常に大切にします。法律で定められた勤務時間や休暇日はきっちり守られ、有給休暇の取得にも理解があります。
レストラン業界は忙しいので完全に規定通りとはいかないまでも、週1~2日の定休は確保され、夏と冬にはまとまった休みを取るのが一般的です。

例えば前述のように8月には店を閉めてスタッフ全員休暇というケースも珍しくなく、「夏はみんな休むもの」という共通認識があります​。
日本の外食産業ではお盆や年末年始も営業するケースが多いですが、イタリアでは休むときは休む文化です。この点は最初驚くかもしれませんが、プライベートを尊重する働き方に慣れていくと心身の健康に良い影響があるでしょう。

時間

また、時間に対する感覚も違います。
イタリアでは何事ものんびりしていると言われますが、レストラン業においても、日本のように分刻みでテキパキというよりは多少おおらかです。
集合時間に5分10分遅れてくるのは日常茶飯事ですし、機材の修理や食材の納品も予定より遅れることもあります。日本では厳守が当たり前のことも、イタリアでは「まぁそんなこともあるよね」で済まされる場合が多いです。最初はもどかしく感じるかもしれませんが、深刻に怒るより柔軟に対処する方が賢明です。

ただし料理の提供スピードや仕込み時間の管理などプロとして守るべき部分は厳しく、営業中は皆プロ意識を持ってテキパキ動きます。そのメリハリもあり、営業が終われば冗談を言い合い、まかないを食べながらワインで乾杯、といった陽気な職場の雰囲気を楽しめるでしょう。

ジェスチャーや表現

ジェスチャーや表現にも慣れておきたいところです。
イタリア人は感情表現が豊かで、良いものには「ブラボー!」と大げさに褒め、気に入らないことがあれば顔や身振りにすぐ出ます。厨房でも「完璧だ!」とか「今日のパスタは最高だ」といった称賛や、「早くして!」「そこは違う!」といった指示が飛び交いますが、どれもあまり遠慮せずストレートに言います。日本人は控えめになりがちですが、自己主張すべき場面でははっきり意見を伝えた方が信頼されます。

逆にイタリア人の同僚が大げさに聞こえるくらい褒めてくれたり叱ってきたりしても、それは日常の範囲ですので驚かないようにしましょう。
郷に入っては郷に従えの精神で、文化の違いを前向きに受け入れることが、イタリアで働く上での重要な適応ポイントです。

参考:
・note:一料理人、イタリアで初めての職場へ
・ITALIANITY:8月15日はフェラゴストの祝日!どんな祝日?

イタリアで活躍する日本人料理人の事例

イタリアでは多くの日本人料理人が活躍しており、その活躍ぶりは現地でも高く評価されています。
日本人シェフの成功事例をいくつかご紹介しましょう。

まず、ミラノで和食ブームの草分け的存在となった平澤稔シェフ(愛称シロー)が経営する「ポポロ屋」は、日本人シェフによる本格寿司店の先駆けです。1989年にミラノ初の寿司バーを開店した当初は客の大半が日本人で、イタリア人には生魚の文化が根付いていませんでした。しかし「和食の魅力を広めたい」という平澤シェフの情熱と地道な努力で徐々に状況は好転し、今では来店客のほとんどがイタリア人になるほど支持を得ています​
店内では日本の演歌が流れ、平澤シェフが威勢よくイタリア語で常連客に声をかける光景が名物です。「調子はどうだい、シロー?」と客から親しまれるその姿は、ミラノっ子にとっても欠かせない存在となっています。
ポポロ屋はイタリア各地の日本食店オーナーが加盟する日本人レストラン経営者イタリア協会の会員でもあり、長年にわたりミラノの和食ブームを牽引してきたお店です。

山本厚子シェフ

次に、新進気鋭の例としてミラノの「Gastronomia Yamamoto(ガストロノミア・ヤマモト)」があります。
こちらは山本厚子シェフが手掛ける日本の家庭料理スタイルのレストランで、2017年の開店以来ミラノっ子の胃袋を掴んでいます。特徴は豪華な寿司ではなく、おにぎりや味噌汁、唐揚げなど家庭的なメニューを通じて日本の食文化を発信している点です。

それが現地で評価され、数々の賞を受賞しています。イタリアの著名シェフであるカルロ・クラッコ氏によって「最高の新規レストランの一つ」に選ばれたほか、食の祭典Golosariaでは2019年の日本食レストラン第1位に輝きました。ミラノ中心部という激戦区にありながら連日満席となる人気ぶりで、6割を占めるというリピーターのイタリア人たちを唸らせています。

「日本の家庭の食卓をそのままミラノに持ってきたような店」としてメディアでも紹介され、和食=高級というイメージを覆す存在として注目されています。山本シェフ自身もイベントやケータリングに積極的に参加し、現地の人々に日本の家庭料理の魅力を伝えるミッションに燃えているとのことです。

徳吉洋二シェフ

さらに、日本人がイタリア料理の分野で成功した例も見逃せません。代表的なのは、ミラノで活躍する徳吉洋二シェフです。
徳吉シェフはかつてモデナの世界的名店「オステリア・フランチェスカーナ」で10年間スーシェフを務めた後、2015年に自身の店「TOKUYOSHI」をミラノに開店しました。そのわずか数ヶ月後にミシュラン一つ星を獲得し、これは日本人シェフがイタリアで初めて星を得た快挙として話題になりました。

徳吉シェフはイタリア料理に和の感性を融合させた独創的なスタイルで評価を受け、パンデミック中には日本の「お弁当」文化に着想を得た新業態「ベントーテカ(Bentoteca)」を立ち上げるなど、常に革新的な取り組みをしています。ミラノで唯一星を持つ日本人シェフとして、その存在は現地の美食界でも特別な注目を集めています。

能田耕太郎シェフ

ローマでも、かつて能田耕太郎シェフが「ビストロ64」でミシュラン星を獲得した実績があり、日本人の技がイタリアでも通用することを証明しました​。
その他、フィレンツェの和食店「Il Cuore」で日本の心を伝える渡邉竜介シェフや、ヴェネツィアで地元食材と和食を融合させるシェフなど、枚挙にいとまがありません。

近年は若い世代の日本人料理人も多数イタリアに渡り、各地で頭角を現しています。SNS上では、現地で奮闘する日本人シェフたちが自店の料理や修行の日々を発信しており、それらが次の志願者の刺激にもなっています。「自分もこの先輩方に続きたい!」という30代・40代の料理人が増えていることも、和食エージェントには実感として伝わってきます。

参考:
・日本貿易更新機構:ポポロ屋 (ミラノ/イタリア) : 和食の魅力を広める“シロー”こと、平澤稔氏のミラノ初の“すし場”
・ミラノ掲示板:ミラノでアシスタントシェフを探しています!
・MEN’S Precious:日本人初のイタリアミシュランを獲得した、徳吉シェフがミラノで提案する「BENTO」スタイル
・料理王国:イタリア料理への飽くなき探求心「ビストロ64」能田耕太郎さん

イタリアにおける日本食市場の評価と展望

最後に、イタリアの日本食市場の現在の評価と将来展望について触れます。
総じてイタリア人から見た和食の評価は年々高まっており、「健康的で洗練された料理」というポジティブなイメージが浸透しています。2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことも追い風となり、寿司だけでなく和牛、ラーメン、日本酒など日本発の食文化全般に関心が寄せられています。
実際、イタリア国内の日本食レストランの数はこの10年で飛躍的に増加し、今や地方の中小都市でも寿司やラーメン店を見かける時代になりました​。和食レストランの顧客も、その大半が地元イタリア人を占めるようになり、本場の味を求めるリピーターが各店を支えています​。

イタリア人に人気の日本食と言えば真っ先に寿司が思い浮かびますが、現在では寿司以外の選択肢も広がっています。
前述のラーメンブームはその典型で、「パスタの国」にラーメンが浸透しつつある様子は日本のニュースでも紹介されました​。
また、天ぷらや焼き鳥、しゃぶしゃぶやお好み焼きといったジャンルにも挑戦するお店が現れ、創作和食や和食×イタリアンのフュージョンといった新しい試みも増えています​。
ミラノは昔も今もイタリア美食の最先端を行く都市であり、フュージョン和食やストリートフード系和食など大小様々なムーブメントがここから発信されてきました​。

一方ローマやフィレンツェなどでは、より伝統的で落ち着いた和食店が地元の食通たちに愛される傾向があります。
都市ごとの食文化の違いはありますが、いずれにせよ日本食はもはや一過性の流行ではなく定着した料理として認識されていると言えるでしょう。

今後の市場展望としては、イタリアにおける日本食人気は引き続き拡大すると予想されます。
ヘルシー志向や新しい味への探究心から日本食を試すイタリア人は増えており、現地メディアでも「日本食ブームは衰えず」と報じられています​。実際、ミラノの日本食レストランでは客単価が昼€10前後~夜€40超まで幅広く、カジュアルから高級まで多様な業態が共存する成熟市場が形成されています。
特に寿司や懐石など高級和食店では客単価が高くなる傾向にあり、それだけ支払っても本物の和食を味わいたいという富裕層が一定数いることを示しています。こうした背景から、日本食マーケットは今後も拡大し続ける可能性が高いと言えます。

また、日本政府や企業も和食の海外展開を後押ししています。
農水省とJETROが認定する「日本産食材サポーター店制度」にはイタリアの多くの和食店が参加しており、現地での日本産食材の流通も年々スムーズになっています。日本酒ブームもヨーロッパ全体で起きており、イタリアでも日本酒バーや利き酒会の開催が増加中です。これらは和食レストランにとって新たなビジネスチャンスとなるでしょう。さらに近年はヴィーガンやグルテンフリー対応の和食など、健康志向に沿ったメニュー開発も進んでいます。伝統を守りつつ現地のニーズに合わせて進化していく柔軟性こそが、日本食業界が今後も発展していく鍵となりそうです。

参考:
・日本貿易振興機構:ポポロ屋 (ミラノ/イタリア) : 和食の魅力を広める“シロー”こと、平澤稔氏のミラノ初の“すし場”
・日本食糧新聞:パスタの国でラーメンブーム イタリア人のペースにあわせた工夫で人気に
・料理王国:イタリア料理への飽くなき探求心「ビストロ64」能田耕太郎さん

まとめ

イタリアで働く日本人料理人にとって、現地の和食市場は非常に魅力的で可能性に満ちています。
求人は主要都市を中心に豊富で、適切なビザと準備さえ整えばキャリアチャンスが広がっています。給与水準や労働環境は日本と異なる点もありますが、充実した福利厚生や休暇制度のおかげで働きやすい面も多々あります。
文化の違いを乗り越え現地に溶け込んでいくことで、日本人料理人ならではの強みを発揮できるでしょう。先輩方の活躍事例が示すように、情熱と努力次第でミシュランの星を掴むことも夢ではありません。

イタリアの地で和食・日本料理人として挑戦したいあなたへ、本記事の情報が一助となれば幸いです。
Buona fortuna!(グッドラック!)

参考:
・Genspark:Current Spending Trends at Japanese Restaurants in Italy: A 2024 Overview

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