ヨーロッパで働く料理人・シェフ完全ガイド|求人・生活・ビザ情報徹底解説
日本食(和食)は近年ヨーロッパで大きなブームとなっており、各地で日本食レストランが増え続けています。2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことも追い風となり、日本食の評価と人気は世界的に高まりました。とりわけ欧州でも寿司やラーメンといった料理が定着し、現地の人々に広く受け入れられています。
本記事では、30~40代の日本人料理人・寿司職人の皆様がヨーロッパで働くことを検討する際に知っておきたいポイントを 7つのカテゴリ に分けて解説します。求人市場の傾向から給与相場、ビザ制度、生活情報、文化の違い、活躍する日本人シェフの事例、そして日本食市場の展望まで、最新情報をもとにまとめました。
ぜひ海外挑戦の参考にしてください。
参考:
・International Business Partners:日本食レストランの進出が加速する欧州
・Digima:海外で人気の「日本食ブーム」と「現地の外国人の和食への反応」まとめ
1. ヨーロッパの求人市場の傾向~ヨーロッパで求められる寿司職人・料理人
ヨーロッパ全体で日本食ブームが続いており、多くの国・都市で和食シェフの需要が高まっています。寿司とラーメンは欧州の日本食人気を牽引する代表格で、どの国でも知名度が抜群です。
実際、ヨーロッパでは人口50万人以上の都市なら和食レストランが全くない所を探す方が難しいほど寿司が浸透しています。寿司はもはや「日本料理」という枠を超え、他のアジア系レストランでも提供されるグローバルフードとなりました。
またラーメンも急速に人気を高めており、ロンドンなど大都市には日本の有名ラーメン店も進出し、現地でも日本に負けない味が提供されています。特に英国では一風堂などのチェーンが上陸し、フランスやスペイン、ドイツなどでも次々とラーメン店がオープンしています。ラーメンはリーズナブルな価格とボリューム、多彩なバリエーションが受けており、最近ではビーガン向けやプラントベースのラーメンも登場して健康志向の消費者にも支持されています。
人気の国・都市
日本食人気が特に高いのは、イギリス(ロンドン)、フランス(パリ)、スペイン(マドリードやバルセロナ)、イタリア(ローマ・ミラノ)、ドイツ(デュッセルドルフ・ベルリン)など、西欧の主要都市です。ロンドンは多様な日本食レストランが集まる一大市場で、高級寿司から居酒屋まで幅広い業態があります。
パリもミシュラン星付き和食店が登場するなど、グルメの街で和食が評価されています。
ドイツのデュッセルドルフは日系企業約600社が集まる「リトル・トーキョー」として知られ、日本食材店や和食店の充実度はヨーロッパトップクラスです。
さらに東欧や北欧でも和食ブームが広がりつつあり、ロシアやイタリアでもコロナ前から人気が上昇していたとの報告もあります。
需要の高いジャンル
和食の中でも寿司とラーメンの人気は不動ですが、それ以外にも居酒屋スタイルの店やカレー専門店への関心も高まっています。例えばロンドンでは、日本式居酒屋で串焼きやおでん、唐揚げなどを提供する店が現地のビジネスパーソンに人気です。
また、欧州でカレーと言えばインド風が主流でしたが、日本式カレーライスの専門店も徐々に増え、懐かしい味がウケています。他にも寿司と各国料理を融合させた創作料理や、ビーガン対応の精進料理、抹茶や和菓子を前面に出したカフェなど、新しいスタイルの日本食業態も注目されています。
求められるスキル
欧州の和食レストランで働くには、日本で培った調理技術に加え 語学力 と 適応力 が重要です。英語は欧州各国で共通のビジネス言語となる場合が多く、厨房でも現地スタッフとのコミュニケーションに必須です。加えて、現地の食材や味の嗜好に合わせて柔軟にメニューを工夫する発想力も求められます。
例えば寿司でもアボカドロールのように日本では見慣れない組み合わせを受け入れる柔軟性が必要になるでしょう。幸い現在、世界的に見ると熟練の寿司職人など和食シェフは人材不足気味であり、十分な経験とスキルを持つ人材の需要は非常に高い傾向にあります。
海外の一流レストランやホテルから厚遇で迎えられるケースも多く、日本人料理人にとってチャンスが広がっています。
参考:
・J-seeds:日本食(和食)をヨーロッパで広めよう
・International Business Partners:日本食レストランの進出が加速する欧州
・タビシタ:日本食材の品揃えはヨーロッパ1!?ドイツ・デュッセルドルフの日本食スーパー!オンラインで通販も可能
・職パレ:寿司職人で海外進出?海外で働くまでの流れや必要なスキルは?
2. ヨーロッパの給与・待遇相場
欧州で料理人として働く場合、日本国内より高めの給与水準が提示されることが多いです。もちろん国や都市、ポジションによって幅がありますが、一般的に欧米諸国は物価が高い分だけ給与額も高めに設定されています。
例えばフランス・パリの和食レストラン求人例では、スーシェフ職で年収約43,896ユーロ(グロス=税込み、約640万円)、ラインシェフで年収30,420~37,632ユーロ(約440~540万円)といった条件が提示されています。イギリス・ロンドンでは、寿司シェフとして2年弱の経験しかない23歳でも年収約£40,000(約800万円)+年1回ボーナスという待遇で働いている例があります。
この遠藤和年さんという寿司職人はロンドンで自身の店を立ち上げ、開店半年でミシュラン1つ星を獲得しました(※後述)。彼は「未経験からスタートして日本より稼げるようになった」と語っています。
一般的な日本国内の調理師平均年収(約342万円)と比べても、欧州で技能を評価された場合はかなり高収入が期待できることが分かります。
給与支払い形態
ヨーロッパでは基本的に月給制で、国によっては年俸を12分割ではなく14分割(夏・冬のボーナス込み)で支給するケースもあります。求人票ではグロス(gross)と書かれていれば税引き前の総額、ネット(net)とあれば手取り額を指します。給与水準を見る際は税金や社会保険料差引後の手取りがいくらになるか確認が必要です。
例えばイギリスで料理長クラスの額面月給を¥600,000(約£3,300)とした場合、所得税・年金など約¥185,000を差し引いた手取りは約¥415,000(約£2,600)になるとの試算があります。税率は収入によって異なりますが、概ね20~40%程度が税金や社会保険で控除される国が多いです。
その代わり手厚い社会保障を受けられる点が欧州の特徴です。
チップ・サービス料
欧州のレストランではアメリカほどチップ文化が強くありません。フランスやイタリアではサービス料が料金に含まれていることが多く、チップはお釣りの端数を渡す程度で問題ない場合もあります。
一方、イギリスではレストランの会計時にサービスチャージ(通常10~12.5%)が自動加算されることが多く、これが従業員に配分されます。したがって、チップ収入は国や業態によってまちまちですが、総じて「期待できないわけではないが、チップ込みでも欧州の給与は十分高水準」と考えてよいでしょう。
福利厚生
ヨーロッパ諸国は法律で労働者の権利が守られており、料理人も例外ではありません。有給休暇はEU指令で年4週間以上保障されており、イギリスでは労働者は5.6週間(28日)の有休取得権があります。多くの国で週休2日制が定着し、残業代支給や社会保険加入も法定されています。雇用主は医療保険料や年金の事業者負担分を支払う義務があり、従業員も給与から拠出します。
医療制度については後述しますが、国民健康保険・公的医療サービスのおかげで従業員本人の医療費負担は軽減されています。
総じて、欧州で正規雇用されるとプライベートの時間や健康にも配慮された働き方が可能で、長期休暇を取ってリフレッシュすることも奨励される環境です。
税制と手取り
各国の税制は異なりますが、所得税の累進課税に加えて社会保険料の自己負担が引かれるため、手取り額(可処分所得)は額面給与の6~8割程度になることが多いです。
例えば前述のイギリスのケースでは額面¥600,000に対し手取り¥415,000と約7割でした。ドイツやフランスも社会保険料率が高いため手取りは額面の6割台になることがあります。そのため、「年収○○万」と聞いても日本の感覚より実際自由に使えるお金は少ない点に留意しましょう。
ただし教育費や医療費が抑えられる国も多く、トータルの生活コストを考慮すると一概に損得は比較できません。税引き後に十分貯金したい場合、物価の安い国よりも高い国で高給をもらう方が結果的に有利なケースもあります。いずれにせよ、提示年収だけでなく「可処分所得」と「現地の物価水準」のバランスを見ることが大切です。
参考:
・ABsolute LONDON:【ロンドン人1】遠藤和年「なぜ自分がそこで握るのか」
・GMK AGENT:イギリスの日本人寿司職人さんの給与大公開!
・WASHOKU AGENT:日本人シェフの平均給料の相場は?
・AKASHI:海外のバカンス事情とは?!年次有給休暇制度の国際比較
・留学スクエア:イギリスの医療制度(NHS)
3. ヨーロッパで働くためのビザ制度
就労ビザの種類
日本国籍者がヨーロッパで料理人として働くには、各国で適切な就労ビザ(労働許可)を取得する必要があります。EU加盟国の場合、多くは現地の企業(レストラン)がスポンサーとなり就労許可を発行する形になりますが、高度人材向けの統一的な制度として「EUブルーカード(Blue Card)」があります。
EUブルーカードはEU域外からの高度技能人材を受け入れるため2009年に導入されたもので、学士以上の学位または同等の職業経験を持ち、各国で定める最低年収要件を満たす労働者に発給されます。ブルーカード取得者は加盟27か国中25か国(※デンマークとアイルランドを除く)で長期就労が可能となり、一定期間勤務すれば永住許可申請も容易になります。
例えばドイツではブルーカードで33か月勤務&年金加入すると永住権が得られ、ドイツ語B1水準を満たせば21か月に短縮されます。またブルーカード保持者は家族の帯同が認められ、配偶者は別途就労許可なしで現地就労も可能です。
近年は学位がなくても3年以上の実務経験があれば対象に含めるなど要件緩和の動きもあり、経験豊富な料理人で高収入オファーを得られる場合はブルーカード取得が視野に入ります。
イギリスのケース
イギリス(英国)はEU離脱後に独自のポイント制移民制度を導入し、Skilled Worker(技能労働者)ビザによる受け入れを行っています。調理師(シェフ)職も公式に対象職種となっており、2025年4月にはシェフを含む200以上の職種が新たに技能ビザのリストに追加されました。これにより、レストランがスポンサーとなってビザを発給しやすくなっています。
通常、一定の英語力と年収下限(地域や職種により異なるがおおむね年£25,000以上)を満たす必要がありますが、シェフは労働力不足リストに入っているため基準給与が若干緩和されます。
また、英国の技能ビザでも配偶者や18歳未満の子どもを帯同できます。配偶者は「ビザの家族滞在資格(PBSデペンデント)」を取得すれば英国で就労することも可能です。イギリスの場合、6か月を超えるビザ申請時に移民医療サーチャージ(Immigration Health Surcharge)という医療サービス利用料を支払う必要がありますが、これを負担すれば滞在中NHS(国民保健サービス)による医療が自己負担なく受けられます。
その他の国
その他の欧州各国でも、日本人料理人が就労するには基本的に労働ビザが必要です。フランスやスペイン、イタリアなどは雇用先のレストランが労働許可申請を行い、在日フランス大使館等でビザを発給する流れです。期間は1~2年更新が一般的ですが、契約次第で延長・転職も可能です。
ワーキングホリデービザは30歳前後までの若年層向けですが、イギリス(30歳まで)、フランス・ドイツ(30歳まで)などと日本は協定があり、一定期間アルバイト的に就労ができます。調理の仕事で本格的にキャリアを積むなら労働ビザが望ましいですが、ワーホリで現地経験を積んでから正式雇用に切り替える人もいます。
求められるスキル
家族帯同の可否: 上記のように配偶者や子女の帯同は、多くの就労ビザで認められています。EU諸国のブルーカードや各国就労ビザでは、家族は居住ビザ(家族再統合ビザなど)を取得して一緒に滞在可能です。特にブルーカードは家族の就労制限がなく、帯同配偶者も現地で仕事を持つことができます。一部の国では扶養家族のビザ手続きに婚姻証明書や子供の出生証明書の翻訳提出が必要なので準備しましょう。
なお、日本はシェンゲン協定国への短期観光はビザ不要(最初の180日間で90日まで滞在可)ですが、働く場合は必ず就労ビザが必要であり、無給の研修であっても就労扱いになることに注意してください。
参考:
・insglobal:EUブルーカードの取得方法: 2024年のグローバルビジネス
・PORTUS:深刻な労働力不足に対応:新移民法とドイツ ブルー カード制度で日本人のドイツ就職が容易に
・Trabelobiz:UK Adds Over 200 Jobs to Skilled Worker Visa Occupation List in 2025
・NHS Employers:Impacts of the changes to the UK immigration policy
4. 現地での生活情報あれこれ
ヨーロッパで生活するにあたり、日本との違いが大きいポイントについてまとめます。
物価・家賃、食材調達、交通機関、医療制度、治安、言語など代表的なテーマを見てみましょう。
物価と家賃
欧州の生活費は国・都市によって差が大きいですが、総じて日本より高めです。特に家賃は主要都市で非常に高騰しています。例えばロンドンの民間賃貸住宅の平均家賃は月£2,206(約43万円)に達しており、前年から9%以上も上昇しています。
イギリス国内でも地方都市ダラムの平均家賃が£568なのに対しロンドンは£2,264と4倍近い開きがあります。パリ市内の1人暮らし用アパートは平均907ユーロ(約14.5万円)で、郊外でも多少下がる程度です。20㎡程度のワンルームで800~900ユーロというのが相場で、東京に比べても割高と言えます。
一方、地方都市や東欧・南欧では家賃はぐっと下がります。例えばポーランドやポルトガルの地方都市ではワンルーム月300ユーロ台も珍しくありません。光熱費や通信費も日本よりやや高めで、電気代・ガス代は昨今のエネルギー価格高騰もあり軒並み上昇傾向です。
とはいえ現地給与も高いため、可処分所得ベースで見れば生活水準を維持できる場合が多いでしょう。
いずれにしても、渡航先の都市の家賃相場を事前に調べ、給与とのバランスを確認することが大切です。
日本食材の入手
日本食ブームのおかげで、欧州でも主要都市なら醤油や味噌、豆腐、寿司米など基本的な食材は比較的入手しやすくなりました。中国系・韓国系のアジアスーパーでも日本食品が棚に並ぶことが多いです。特にドイツのデュッセルドルフは「ヨーロッパ一日本食材の品揃えが良い街」とも言われ、日本食スーパーが多数存在します。それらの店舗はオンラインショップでドイツ国外のEU各国にも配送してくれるため、周辺国に住んでいても通販で日本の調味料やお菓子を取り寄せ可能です。
一方で本みりんや料理酒などアルコール分を含む調味料は各国の酒類販売規制のため店頭で見つけにくい場合があります。ヨーロッパでは酒税法の関係でアルコール度数が高い本みりんは販売許可が必要になるため、多くのスーパーではみりん風調味料(アルコール1%未満)しか置いていません。また鰹節も輸入規制で手に入りにくい国があります。
ただ、醤油・味噌・米など必須食材は各地で定番化しており、日本ほど種類は多くなくとも生活に支障はありません。肉や野菜は基本的に現地で手に入るもので代用し、日本から取り寄せが難しい薄切り肉などは自分でスライスする工夫が必要です。
総じて、大都市では日本の食生活にかなり近い環境を作れるものの、小都市では限られた品揃えになるため、上手に通販や代替品を活用しましょう。
交通機関
ヨーロッパは公共交通網が発達しており、車がなくても生活しやすい地域が多いです。都市部では地下鉄・トラム・バスが頻繁に運行しており、市内移動は概ね公共交通で完結します。例えばロンドンは地下鉄(チューブ)とバスが縦横に走り、パリもメトロ網が市内隅々まで張り巡らされています。鉄道は国境を越えて各国を結んでおり、週末に隣国へ小旅行ということも容易です。また都市部では自転車利用も盛んで、アムステルダムやコペンハーゲンなどは自転車天国です。
交通費は日本と同等かやや高めで、ロンドンの地下鉄初乗りは約£2.5(400円強)、パリのメトロは€1.9(約280円)です。定期券やゾーン制運賃を活用すれば割安に利用できます。地方では車社会の地域もありますが、飲食業の仕事は都市部に集中するため、基本的に車なしでも通勤・生活可能でしょう。
ただし留意点として、欧州ではストライキや遅延が日本より頻繁です。フランスでは鉄道・公共交通のストが年に何度も起こりますし、イタリアでは電車が数分~数十分遅れるのは日常茶飯事という話もあります。時間に厳格なドイツでも、最近は遅延が増えてきています。余裕を持った行動を心がけ、スト情報にはアンテナを張っておきましょう。
医療・健康管理
欧州各国には日本と同様に国民皆保険制度が整っており、基本的な医療は公的保険または税金で賄われます。イギリスならNHS(国民保健サービス)、フランスなら社会保障番号による公的医療保険、ドイツは法定医療保険など呼称は異なりますが、いずれも加入者は医療費の大半が公費負担です。
例えば英国では6か月超のビザで滞在する留学生・就労者はビザ申請時に医療付加料を支払うことでNHSに加入し、診察や治療を原則無料で受けられます。フランスでも企業のフルタイム従業員はCarte Vitale(健康保険カード)が発行され、社会保険により治療費の70%前後がカバーされます(残りは民間保険で補填するのが一般的)。日本の健康保険証のようなものを各国で取得しておけば、病気やケガの際も安心です。
ただし注意点として、診療の予約や待ち時間が日本より長くなる傾向があります。専門医の予約が数週間後・数か月後になることも珍しくありません。また医師とのコミュニケーションは現地語が基本ですが、英語が通じる医師も多いです。緊急時は各国共通の欧州緊急番号「112」に電話すれば救急車を呼べます。日頃から体調管理に気を配りつつ、万一に備えて医療制度の使い方を把握しておきましょう。
治安
ヨーロッパは総じて日本より治安は劣るが、致命的に危険ということも少ないと言えます。凶悪犯罪の発生率はアメリカ合衆国などに比べれば低く、銃犯罪も非常に稀です。
一方でスリや置き引きといった軽犯罪は観光地を中心によく起こります。パリやローマ、バルセロナなどは「スリが多い街」として有名で、日本人観光客が被害に遭うケースも報告されています。財布やスマートフォンの盗難には十分注意し、混雑した場所ではリュックは前に抱える、ショルダーバッグは身体の前で手を添えるなど自衛しましょう。
また日本に比べると夜間の一人歩きは注意が必要です。繁華街や駅周辺では酔っ払い・若者グループに絡まれるリスクもゼロではないため、深夜の外出はできるだけ控えるか同僚と複数で行動するようにします。テロの脅威は一時期高まりましたが、近年は各国とも警戒を強めており、過度に恐れる必要はありません。
ただ、大規模イベントの際には周囲の警備状況に気を配るなど注意は怠らないようにしましょう。
総合的には「用心すべき点はあるが、普通に生活する分には安全」というのが欧州の治安評価です。貴重品管理と危険区域へ近づかない基本を守れば、安心して暮らせるでしょう。
言語と英語の通用度
英語はEU各国で広く通じる第二言語ですが、その普及度合いは地域によって差があります。北欧やオランダ、ドイツなどでは若い世代を中心に英語堪能な人が多く、日常会話程度なら問題なく通じるでしょう。
一方、フランスやイタリア、スペインでは英語が通じる割合がやや低く、特に中高年には現地語しか話せない人も少なくありません。しかしホテルや観光地、国際的な職場では英語対応できる人材が配置されていますし、料理人として働く職場でも基本的な英語は共通言語として使われる場合が大半です。日本人シェフの場合、現地語ができなくても採用されることはありますが、英語力があると大きな武器になります。
また現地語を学ぶ努力を見せることはスタッフやお客様との信頼関係構築にも役立ちます。たとえばフランスのお客さんに対してボンジュールやメルシー程度でも現地語で挨拶すれば親近感を持ってもらえます。
欧州で働く以上、「言葉の壁」は永遠の課題ですが、英語+現地語少々でも意外と何とかなるものです。語学習得も異文化体験の一環ととらえ、積極的にコミュニケーションを図りましょう。
参考:
・Bloomberg:ロンドンの家賃、過去最高ペースで上昇-労働党政権に対応迫る
・Native Camp Bog:【2024年】イギリスの物価は高い?日本と比較してみました!
・Music Discovery:【フランス家賃最新版】地方と都会で広がる格差!都市別家賃ランキング
・fleur de coeur – Paris, france
・WASHOKU AGENT:料理人向け: 海外の給与相場から見る!税金・生活費からの手取り額エリア別比較!
・タビシタ:日本食材の品揃えはヨーロッパ1!?ドイツ・デュッセルドルフの日本食スーパー!オンラインで通販も可能
・JET FRESH:ヨーロッパで手に入りづらい日本食品や食材4選
・note:ヨーロッパの治安の話+α(交通事情編)
・note:「スリが多い」と噂のパリで、街歩き用に買ったカバンとスリから身を守るために気をつけたこと6つ。
・職パレ:寿司職人で海外進出?海外で働くまでの流れや必要なスキルは?
5. 職場での文化的な注意点
日本とヨーロッパでは働き方の文化・価値観に様々な違いがあります。職場の習慣、コミュニケーションの取り方、労働観の相違など、あらかじめ知っておくと適応しやすいポイントを解説します。以下に日本の飲食業界と海外の主な違いをまとめます。
労働環境・働き方の違い
日本の厨房では「長時間労働・休みが少ない・残業代なし」が当たり前になりがちですが、海外では真逆と言っていいでしょう。海外の飲食店はシフト制で労働時間が明確に区切られ、1日8時間勤務が基本です。週休2日が普通で、有給休暇制度も整っています。フランスなど法律で週35時間労働制を敷く国もあり、残業させすぎると雇用者が罰せられます。
したがって「週6日・毎日12時間」というような働き方は欧州では稀で、仕事後や休日はしっかり自分の時間を持つのが一般的です。仕事中も適宜休憩を取り、水分補給や賄い休憩が保障されています。また多くの国では従業員はユニオン(労働組合)に守られており、雇用契約や給与で不当な扱いを受けた場合は訴えることも可能です。
総じてワークライフバランスが重視され、「働きすぎ」は推奨されません。もちろん繁忙期は残業もありますが、その場合も残業代が支払われたり代休が与えられたりします。
評価・昇進の違い
日本では年功序列や経験年数が重視され「まず下積みから」という風潮が強いですが、海外では成果主義・実力主義が中心です。厨房でも若くて腕の立つ人がいればどんどん責任あるポジションに昇格しますし、逆に年上でも能力が伴わなければ部下になることもあります。即戦力かどうか、結果を出せるかが評価の軸であり、年齢より実力が尊重されます。昇給・昇進も、日本のように勤続何年で自動的に上がるのではなく、ポジションごとの職務に見合った人材かどうかで判断されます。
したがって海外で働く日本人シェフは「自分は新人だから…」と萎縮する必要はありません。むしろ積極的に意見やアイデアを出し、実績を示せば早い段階で重要ポストを任される可能性もあります。実際、20代で副料理長やヘッドシェフになった日本人もいます。
その反面、「見習いだから雑用専門」といった甘えは通用せず、最初からプロの一員として結果を求められることも意味します。
海外の厨房では即戦力としての心構えが求められると心得てください。
人間関係とコミュニケーション
日本の厨房ではシェフや板長は絶対的な存在で、体育会系の縦社会が根強いですが、海外ではフラットなチーム構成が多いです。上下関係より各人の役割と責任を重視し、みんな対等な「チームメイト」として働く意識が強いです。
例えばフランスの厨房ではシェフも部下もファーストネームで呼び合い、意見があれば年次に関係なく言います。良いアイデアなら新人の提案でも採用されることがあります。日本人にとって最初驚くかもしれないのは、指示や意思表示が非常に明確でストレートなことです。遠回しな表現や忖度は少なく、感じたことははっきり言葉にします。これは決して怒っているのではなく文化の違いですので、臆せず自分の考えも伝えましょう。
コミュニケーション言語は英語または現地語になりますが、分からなければ確認する、ジェスチャーを交えるなどして意思疎通を図ります。むしろ「わかったフリ」をする方が問題なので、分からない時は聞き返す勇気を持つことが大切です。なお宗教や慣習の違いにも配慮が必要です。欧州の職場は多国籍な人材で構成されることも多く、同僚にムスリム(イスラム教徒)がいればハラル対応やラマダン(月 رمضان)の断食月には配慮する、ベジタリアンの同僚には賄いで肉を避ける等、お互いの文化を尊重する姿勢が求められます。
日本人特有の細やかな気配りはむしろ強みになるでしょう。
労働観・価値観の違い
海外では仕事と私生活は切り離すのが基本で、「仕事こそ人生」のような考え方は少数派です。フランス人は有給バカンスをフル活用しますし、ドイツ人も定時でさっと帰宅します。「休むのは悪」「長時間働いて一人前」といった日本的根性論は通じません。代わりに効率よく働き、人生を楽しむために働くという価値観が共有されています。とはいえプロ意識が低いわけではなく、勤務時間中は職務に集中し、高いクオリティのサービス提供に情熱を注ぎます。
ただ無駄な残業や精神論的なしごきは嫌われるため、日本流の指導方法は見直す必要があります。例えば海外の若手スタッフに日本式の板前修業のような厳しすぎる指導をするとパワハラと受け取られ、すぐ辞められてしまう恐れもあります。適度に褒めてモチベーションを上げつつ、生産性高く仕事を進めるリーダーシップが求められます。
また職場での言動にも注意しましょう。人種・宗教・性別に関するデリケートな話題は避け、冗談でも差別的・侮辱的と取られる発言は厳禁です。欧州は日本以上にダイバーシティを尊重する社会であり、ちょっとした発言が問題視される場合もあります。逆に日本人の謙虚さや勤勉さは高く評価されるので、信頼を得れば良好な人間関係を築けるでしょう。
以上のように、「郷に入っては郷に従え」の精神で現地のやり方を吸収しつつ、日本人らしい強み(繊細さ、責任感、勤勉さ)を発揮できれば、欧州の職場でもきっと活躍できます。初めはカルチャーショックもあるかもしれませんが、柔軟に対応しコミュニケーションを大切にすることで乗り越えていきましょう。
参考:
・tagtripblog.com
6. ヨーロッパで活躍する日本人料理人たち【事例紹介】
実際にヨーロッパで成功を収めている日本人料理人の例をいくつかご紹介します。寿司職人からフレンチシェフまで、その軌跡は様々ですが、いずれも日本で磨いた技と情熱を武器に海外で高い評価を得ています。
遠藤 和年(寿司シェフ
ロンドンにて高級寿司店「Endo at the Rotunda」をオープンし、開店半年でミシュラン1つ星を獲得した寿司職人です。横浜の老舗寿司屋の三代目として生まれ日本で修業した遠藤さんは、2007年にロンドンの和食レストラン「ZUMA」からオファーを受け渡英しました。以後ロンドンを拠点に香港・NY・ドバイなど世界中で活躍し、2019年に念願の自身の店を西ロンドンの高級エリアに開店。【2020年にミシュラン星を獲得】し、その洗練された寿司コースは「感動の寿司シアター」と評されています。
彼はイギリス産の魚介や有機野菜を積極的に使い、地元の食材で最高の江戸前寿司を提供することに情熱を注いでいます。海外の舞台で伝統と創造性を融合し、日本人寿司職人の存在感を示した成功例と言えるでしょう。
小林 圭(フレンチシェフ)
パリ1区で自身の名を冠したフランス料理店「Restaurant KEI」を営み、アジア人初となるフランス版ミシュランガイド三つ星シェフとなった人物です。長野県出身の小林シェフは21歳で渡仏し、名門オーベルジュやアラン・デュカス氏の店で研鑽を積みました。2011年に独立して「レストランKEI」を開店、翌年ミシュラン一つ星、2017年二つ星を獲得。そして2020年、念願の三つ星に到達し、以降5年連続でその栄誉に輝いています。
パリの美食界で日本人がオーナーシェフの店が三つ星を取るのは前例のない快挙であり、彼の名は一躍世界に知られるようになりました。彼の料理はフランス料理の伝統に日本的な繊細さを融合させた独自のもので、看板メニューの「最中 サーモンキャビア」はフランス人をもうならせる芸術的な一品です。近年は東京にも進出し、国際的に活躍の場を広げています。日本人シェフの実力がフランス本場で認められた象徴的存在と言えるでしょう。
林 大介(日本料理シェフ)
ロンドンに懐石料理店「露結(ろけつ)」を開いた和食料理人です。林シェフは京都の老舗料亭「菊乃井」で村田吉弘氏の下で修業し、2008年の北海道洞爺湖サミットでは日本料理担当責任者も務めました。その際に欧州で店を出す話が持ち上がり、師匠の村田氏に相談したところ「これから日本料理は世界に行くときや」と背中を押されたそうです。
これを受けてロンドン行きを決意し、長年の夢だった本格懐石の店「露結」を2021年に開業。地元の高級志向な客層に向けて、日本産の食材と現地食材を巧みに組み合わせたコースを提供しています。伝統的な器やおもてなしの所作も取り入れ、日本文化の真髄を伝える試みに挑戦中です。
林シェフのケースは日本の高級和食がそのまま欧州で通用し得ることを示した例であり、「和食の味と心」を海外に広める先駆者の一人と言えるでしょう。
この他にも、ヨーロッパ各地で日本人シェフが活躍しています。スペイン・マドリードでは日本人シェフが経営するラーメン店が行列店になったり、イタリア・ミラノでは和食とイタリアンを融合させた創作料理店が注目されたりと、そのスタイルも様々です。
ポイントとして感じられるのは、皆「日本の本物の味」を大切にしつつ現地の文化や食材と調和させていることです。海外の人々に和食を楽しんでもらうため、柔軟な発想で新しい日本食を生み出しているのです。先輩方の体験談やSNS発信を通じて情報収集し、自分なりの海外でのキャリアプランの参考にしてみてください。
参考:
・ABsolute LONDON:【ロンドン人1】遠藤和年「なぜ自分がそこで握るのか」
・THE RAKE:美食の街パリで三つ星を獲った唯一の日本人
・日本貿易振興機構JETRO:露結:ロンドンの本流懐石料理。料理を通して日本の真髄を発信
・J-seeds:日本食(和食)をヨーロッパで広めよう
・職パレ:寿司職人で海外進出?海外で働くまでの流れや必要なスキルは?
7. ヨーロッパにおける日本食市場の評価と今後の展望
最後に、欧州の日本食マーケットがどのように評価され、今後どのような展開が見込まれるか展望を述べます。結論から言えば、ヨーロッパにおける日本食人気は一過性のブームではなく、定着した食文化の一部として根付きつつあり、今後も拡大が期待できます。
欧州では近年、日本への観光客(インバウンド)が増えた影響で、帰国後に現地でも「日本で食べたあの味をまた食べたい」という声が高まっています。実際、日本を訪れた外国人旅行者が「この値段でこんな高品質の日本食が食べられるなんて驚きだ」と感動し、祖国に戻ってから日本食を探し求めるケースが増えました。
その結果、各国で日本食レストランの進出が加速し、日本食ブームの波が広がっています。寿司やラーメンはすでにポピュラーな存在となり、カレーや居酒屋など次のトレンドも生まれています。欧州各国で日本食レストランが増えている事実自体が、**「日本食が世界で認められ始めている証拠」**とも言えるでしょう。
しかし一方で、欧州の多くの日本食店は現地資本で運営され、現地の物価・嗜好に合わせてアレンジされているため、必ずしも本場のクオリティではないことも少なくありません。欧州在住者が日本を訪れて本物の和食を味わうと「欧州の日本食は高い割に質がいまいち」と感じることもあるようです。
そこで近年求められているのが、より日本の味に近い本格的な日本食店です。寿司もこれまではカリフォルニアロールのような巻物中心でしたが、最近は握り寿司への関心も高まってきました。健康志向の高まりも追い風で、「日本食=ヘルシー」というイメージが広がりつつあります。例えば豆腐や海藻、蕎麦・うどんなど日本では脇役だった食材が欧米で脚光を浴び始めています。
将来展望としては、日本食のさらなる多様化と現地化が進むと考えられます。寿司・ラーメンに続いて、焼き鳥、しゃぶしゃぶ、お好み焼き、スイーツ系和カフェ、日本茶バー、クラフト日本酒バーなど、まだ欧州では珍しいジャンルにもチャンスがあります。また和食と他国料理との融合(フュージョン)も盛んになるでしょう。現在でもペルーと日本の融合料理「ニッケイ」や、和食材を使ったフレンチが登場しています。
さらに、日本政府や自治体、JETROなども「日本産食材サポーター店認定制度」等を通じて海外の日本食レストラン支援を行っており、良質な和食材の流通が増えればクオリティ向上にも寄与します。ヨーロッパ人の味覚も年々洗練され、日本食への理解が深まっていますので、本物志向の和食で勝負する価値は高まる一方です。
欧州で日本食文化を広める第一線に立つのは、ほかならぬ現地で働く料理人の方々です。読者の皆様がヨーロッパに飛び出し、現地消費者との交流を通じて和食の魅力を伝えていくことが、日本食市場の未来を形作っていくでしょう。「これから日本料理は世界に行く時代」──名料理人・村田吉弘氏のこの言葉通り、まさに今が和食が世界へ羽ばたく好機です。
ヨーロッパでの経験はご自身のキャリアに新たな刺激と成長をもたらすとともに、日本食のさらなる発展にも貢献するはずです。
参考:
・International Business Partners:日本食レストランの進出が加速する欧州
・Digima:海外で人気の「日本食ブーム」と「現地の外国人の和食への反応」まとめ
・J-seeds:日本食(和食)をヨーロッパで広めよう
まとめ
ヨーロッパで働くという挑戦は決して容易ではありませんが、適切な情報と準備があれば不安を乗り越え大きなやりがいを得られるでしょう。求人動向を把握し、自分に合った国やジャンルを見極め、ビザや生活面の手続きをしっかり行えば、道は開けます。海外で活躍する先輩シェフたちのように、皆さんの持つ技術と情熱で是非ヨーロッパの人々を唸らせてください。
文化の架け橋として和食を提供しながら、自身も成長し豊かな人生経験を積める――それが海外で働く醍醐味です。ヨーロッパの地で、あなたならではの物語を紡いでいくことを期待しています。新天地でのご健闘をお祈りします。🍣🍜🌍
参考資料:
日本貿易振興機構(JETRO)海外レポート、各国求人情報サイト、現地在住者のブログ記事、海外進出支援プラットフォーム記事など
・j-seeds.jpintl-biz-partners.com
・digima-japan.comtagtripblog.com
・absolute-london.co.uk。
最新情報は各国政府観光局や移民局の公式サイト、在欧邦人コミュニティ等からも入手してください。
なお、本記事中の通貨換算は執筆時点(1ユーロ=145円, 1ポンド=160円程度)に基づき概算しています。