ベトナムで働く日本人和食料理人のための総合ガイド

ベトナムの日本食産業は近年急速に発展しており、海外でのキャリアを考える日本人の寿司職人や和食シェフにとって有望な選択肢となっています。
本ガイドでは、ベトナムで働く際に知っておきたい市場動向、給与水準、ビザ・就労規則、採用慣行、現地での生活、そしてキャリア展望について詳しく解説します。

1. ベトナムにおける日本食市場の動向

日本食レストランの増加と人気

ベトナムでは日本食ブームとも言える状況が続いており、日本食レストランの数はこの数年で大幅に増加しました。例えば、2015年時点で約770軒だった日本食レストランが、2020年には約2,500軒に達し5年間で3倍以上に増えています。2023年6月時点では約2,570店に上るとの報告もあり、そのうちホーチミン市が全体の約47.5%を占めています。

この急成長は、ベトナム人消費者からの日本食に対する高評価に加え、日本人駐在員や日本からの観光客増加も背景にあります。実際、日本食レストランの顧客の 約90%は現地のベトナム人 であり、日本食は健康的で美味しく高品質というイメージから支持を得ています。また2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことも追い風となり、ベトナムのみならず世界的に日本食人気が高まっています。

主要都市別の展開

日本食レストランは主要都市に集中しています。ホーチミン市(HCMC)は経済の中心地で日本食店が最も多く、2024年時点で約944軒が存在します。特に1区・3区のレタントン通り(通称「リトル東京」)やタイバンルン通り周辺に、高級寿司店からカジュアルなラーメン店、居酒屋まで幅広い業態が集積しています。首都ハノイも約472軒の日本食店があり、タイ湖(Tay Ho)、ホアンキエム、バーディンといった外国人居住者の多い地区に集まっています。

ハノイの日本食シーンは伝統的和食とベトナム風創作和食の両方が共存しており、現地の嗜好に合わせたフュージョンも見られます。さらにダナンやニャチャンなど日本人観光客が増えている沿岸都市でも出店が相次ぎ、2024年にはダナンに111軒、ニャチャンに42軒の日本食店が確認されています。これら観光地では、日本の伝統料理と地元海産物を融合させたメニューで差別化を図る店もあります。

現地顧客に人気の日本食の種類

ベトナムの日本食レストランは多彩で、寿司やラーメンから居酒屋メニューまで幅広いニーズに応えています。ベトナム人の日本料理に対する認知度を見ると、「寿司・刺身」が94.3%と突出して高く、次いで「うどん」(78.8%)、「焼き鳥」(72.9%)が続きます
都市別ではホーチミン市の方がハノイよりも寿司やたこ焼きの認知度が高い傾向があり、日本食文化の浸透度に地域差も見られます。以下はベトナムで代表的な日本食レストランの業態と特徴です。

寿司・刺身レストラン

新鮮な魚介を売りにした寿司店は人気の中心です。
高級店では品質維持のため日本からネタを直輸入することもあります。現地では寿司は「健康的な日本食」の代表格と捉えられており、高級寿司バーから手頃な回転寿司まで幅広く展開しています。

ラーメン専門店

日本各地のラーメンを再現した専門店も増えています。札幌味噌や東京醤油など地域ごとの味を提供しており、在住日本人のみならず若いベトナム人にもラーメンブームが広がりつつあります。

居酒屋(イザカヤ)

アルコールと小皿料理を楽しむ居酒屋スタイルも定着しつつあります。
焼き鳥や唐揚げ、枝豆など居酒屋メニューが人気で、若いビジネスマンや駐在外国人にも好評です。ホーチミン市内には日本式居酒屋が多数あり、現地の方にも賑わう店が増えています。

鉄板焼き

目の前の鉄板で調理を披露する鉄板焼きレストランも登場しています。
和牛ステーキやシーフードの鉄板焼きは富裕層の接待や記念日に利用されており、ダナンなどでも日本人シェフの鉄板焼き店が人気です。

焼肉店

自分で肉を焼いて食べる焼肉スタイルも浸透しています。
日系チェーンのSumo BBQはホーチミン市に10店舗、ハノイに9店舗を構えるほどで、現地における焼肉人気の高さが伺えます。牛肉は高級品ですが、若者グループを中心に利用が増えています。

丼物・天ぷら

天丼やカツ丼、各種丼物や天ぷらを手頃に提供する店もあります。
例えばTokyo Deliはホーチミンに13店舗、ハノイに15店舗展開し、日本式の丼物や定食が日常的な外食の選択肢として根付いています。

割烹・おまかせ

本格的な割烹や懐石料理の店も大都市を中心に少数ながら存在します。
ホーチミン市の「割烹にし山」のように、京都や銀座のような品格ある店構えで旬の魚介のおまかせコースを提供する店も登場しており、富裕層や外国人ビジネス客から高い評価を得ています 。このような高級店では日本人料理長が季節の食材を活かした伝統料理を振る舞い、接待需要にも応えています。

市場トレンドのまとめ

ベトナムの日本食市場は多様性と成長性に富んでいます。
ホーチミンの高級寿司バーからハノイのカジュアルラーメン店、沿岸部の和洋折衷シーフード店まで、日本食レストランはもはや現地の食文化に欠かせない存在です。
他国料理との競争もありつつも、ベトナム人の日本食志向の高まりや都市部の可処分所得増加に支えられ、今後も新規出店や地方都市への拡大が期待されています。

2. 給与と待遇のベンチマーク

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ベトナムの日系日本食レストランで働く日本人シェフの給与は、日本国内と比べても遜色ない水準から、高級店ではそれ以上の場合もあります。ポジション別のおおよその月給レンジは以下のとおりです。

ジュニアレベル(若手・中堅クラス)

月給約1,500~2,500 USD程度(約20万~35万円前後)。
たとえばホーチミン市の日系和食レストランの調理スタッフ募集では、月給2,000~3,000 USDという例があります。経験が浅めでも、日本での数年の修行経験があればこのレンジで採用されることが多いようです。

ミドルレベル(料理長候補・副料理長クラス)

月給約2,500~3,500 USD程度(約35万~50万円)。
実務経験5年以上で部下の指導もできるような人材にはこの範囲の給与提示が一般的です。実際、ホーチミンの和食居酒屋チェーンが統括料理長を募集した際は月給3,000~3,500 USDという条件でした。

シニアレベル(料理長・ヘッドシェフクラス)

月給約3,500~5,000 USD以上(約50万~75万円超)と、高級店では更に高額になります。
実例として、ハノイの高級寿司店新規開業にあたり年収手取り480~840万円(月給換算40万~70万円)という破格のオファーが提示されたケースがあります。このように富裕層向け高級店や大規模店では、経験豊富な板前には年収ベースで日本円数百万円台後半に及ぶ高待遇も見られます。

※上記金額はあくまで目安であり、為替レートや個人の経験・スキルによって変動します。
また給与形態は基本給+サービス料や業績ボーナス等を含む場合もあります。求人によっては「手取り(ネット)」で提示されることもあり、提示額が税引き後なのか税前なのか確認することが重要です。

一般的な福利厚生

日本人シェフの求人では、給与に加えて各種手当や福利厚生が用意されていることが多いです。
典型的な例として以下のような待遇が含まれます。

住宅補助

住居手当や社宅提供が付くケースが大半です。現地の住居探しや費用負担の不安を軽減するため、会社がアパートを借り上げたり家賃の一部を負担してくれます。

食事支給

まかない(社員食)の提供は一般的です。勤務日に1~2食の食事が支給され、食費の節約になります。

通勤交通

勤務先によっては通勤用送迎車や交通手当が出る場合もあります。深夜勤務がある寿司店などではタクシー代支給等の配慮も見られます。

渡航費・一時帰国費用

渡航航空券は最初の赴任時に会社負担となることが多く、さらに年1回の一時帰国航空券を支給する企業もあります。遠方で働く負担を和らげるため、日本への定期的な帰国費用を出す求人も増えています。

ビザ・労働許可関連

就労ビザや労働許可証の取得サポートは必須の福利厚生と言えます。会社の人事担当や代理人がビザ申請手続き一切を支援し、関連費用も企業側が負担するのが通常です。

医療保険

ベトナムの社会保険への会社加入に加え、民間医療保険に会社負担で加入してくれる場合もあります。万一の病気や怪我に備え、外国人も利用可能な私立病院で使える保険を用意する企業もあります。

業績インセンティブ

一部では業績ボーナスやチップ分配などインセンティブ制度を設け、店の売上・評価に応じて追加報酬を得られることもあります(求人内容によります)。

現地の物価と給与の実

ベトナムは物価水準が日本より低く、例えばホーチミン市で日本人が安心して住めるワンルームの家賃相場は月400~800 USD程度(約6万~12万円)と言われます。ローカルの食事は1食あたり数百円程度と安価で、日本人シェフの給与水準からすると生活費を差し引いても十分な貯蓄が可能です。

現地採用で額面だけ見ると日本と大差ない場合でも、住宅手当や社保負担、税制優遇などで実質手取りのメリットがあります。実際、海外勤務によって「日本で働くより収入が増えた」というシェフも多く、同世代より早く経済的安定を得ている例も見受けられます。

3. ビザと就労に関する規制

ベトナムで合法的に働くには労働許可証(ワークパーミット)と就労ビザ(通称LDビザ)が必要です。
通常、在留資格としてはLDカテゴリーのビザが発行され、労働許可証の有効期間(最長2年)に合わせて一時滞在許可証(Temporary Residence Card)が交付されます。

なお、3ヶ月未満の短期勤務であれば労働許可証は免除されビザ(DN等)だけで働ける例外もありますが 、レストラン勤務など通常は長期契約となるため基本的にワークパーミット取得が前提です。

労働許可証の取得要件:

外国人が労働許可を得るためには所定の条件を満たす必要があります。
年齢は18歳以上、健康であること、そして当該職種に見合った資格または実務経験を有すること等が挙げられます。シェフの場合、必須の国家資格こそありませんが、以下のいずれかに該当することが望ましいとされています。

大卒の場合

大学卒業以上+関連分野で3年以上の実務経験があれば、調理師免許などがなくても就労ビザ取得要件を満たしやすくなります。

大卒ではない場合

1年以上の専門訓練歴+3年以上の実務経験が一つの基準となります。
日本の調理師専門学校卒で実務3年超などが該当します。この場合、日本の調理師免許を持っていると公的な訓練歴・実務経験の証明として有効で、ビザ取得が容易になる傾向があります。実際、調理師免許は必須ではないものの、持っていればビザ取得の際に有利になるとされています 。

その他にも、無犯罪証明書(日本および最終居住国)、健康診断書、雇用主からの招聘状などの書類が必要です。
これらは現地雇用企業がスポンサーとなって準備・申請します。雇用主は、外国人を雇用する理由を労働局に申請し承認を得る必要があり、ポジションごとの申請手続きも法律で定められています。
もっとも実務上は、採用企業の人事担当者や代行業者が一括して手続きを進めてくれるため、応募者自身は必要書類を揃えることに注力すれば大丈夫です。

ビザスポンサーと手続きフロー

一般的な流れとして、採用が決まると企業が現地当局に対し外国人雇用の事前届出を行い、その後候補者に必要書類を準備してもらい労働許可証の申請をします。
労働許可証が発給された後、それに基づいて就労ビザ(LDビザ)または一時在留許可証(レジデンスカード)が発行されます。近年ベトナム政府は手続きの迅速化を進めており、2025年施行の新政令では労働許可証の発行期間が10営業日に短縮されるなどの改善も行われました。

なお、労働許可証の有効期間は最長2年で、契約延長時には更新手続きが必要です。契約満了や離職に伴い労働許可証は無効となるため、その際は新たな就労先で取り直すか、一定期間内に出国することになります。

契約期間と雇用条件

多くの日本食レストランでは契約期間は1~3年程度で設定されます。2年契約とする例が多く、これは労働許可証の最長期間に合わせているためです。契約更新に合意すれば再度ワークパーミットを更新して引き続き勤務できます。
雇用形態は現地採用の場合正社員(無期雇用)契約となることがほとんどですが、試用期間を設けるケースがあります。ベトナム労働法では試用期間は最長60日と定められており、その間は本採用時の給与の85%程度が支給されるのが一般的です(求人票に記載があることもあります)。

また、有給休暇日数や週休制などの労働条件も現地法に従います。たとえば週休は少なくとも1日は保証されており 、求人によっては「週休1日(シフト制)、月6~8日休み」や「完全週休二日制」を提示するところもあります。レストラン業界では営業日数確保のため隔週休2日などのケースもありますが、契約書上はベトナムの労働基準法に則った休日・休暇制度が明記されます。

法律上の留意点:

ベトナムでは就労者に社会保険・医療保険への加入が義務付けられており、外国人も例外ではありません。給与から一定額が社会保険料として控除され会社負担分と合わせて納付されます。
ただし二国間協定により日本の年金加入期間への通算が可能な場合もありますので長期滞在時は確認すると良いでしょう。

また、所得税については累進課税制ですが、外国専門家向けの優遇税制が適用されるケースもあります(契約内容次第)。ビザや労務に関する法規制は変更されることも多いため、最新情報はJETROや在ベトナム日本大使館の案内を確認すると安心です。

4. 採用慣行と現地で期待される役割

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採用プロセス

日本人シェフの採用は、一般に書類選考と面接(複数回の場合あり)で行われます。多くの場合、まず履歴書・職務経歴書の提出が求められ、書類審査を通過するとオンライン面接(Skype/Zoom等)が設定されます。
一次面接では採用担当者(オーナーや料理長、または人材紹介会社担当)が経歴や志望動機、技術について質問します。
その後、場合によっては二次面接や実技試験が課されることもあります。海外採用では渡航を伴うため実技試験はオンラインで口頭確認のみとするケースもありますが、店によっては現地に招いてトライアルクッキングをさせることもあります。

採用決定までの期間はおおむね2~4週間程度が目安で、応募から内定までは2~3週間程度と案内する求人もあります。内定後は給与・待遇の交渉や入社日の調整を経て契約となり、ビザ申請手続きに入ります。

語学と評価ポイント:

採用にあたって語学力は必須条件ではないことが多いです。実際、多くの求人票で「言語不問(日本語でOK)」や「英語・ベトナム語できれば尚可」程度の記載に留まっています。
料理の腕や経験が重視されるため、調理技術とマネジメント能力が評価の最重要ポイントです。ただし日常会話レベルの英語ができればコミュニケーション上有利ですし、現地スタッフとのやり取りでベトナム語の挨拶や簡単な用語を覚える努力も評価につながります。
ある大型店の求人では40歳未満の日本人で、日常会話程度の英語力、和食5年以上の経験という条件が提示されました。このように若手~中堅で海外志向があり、サービス精神や適応力の高い人材が求められる傾向があります。

主な職種・役割:

料理長(ヘッドシェフ)

現地店舗の総責任者としてキッチン全般を統括するポジションです。メニュー開発、食材の品質管理、仕入れ発注、原価管理、スタッフ教育、お客様対応まで多岐にわたる業務を担います。
ベトナムでは日本人が料理長を務める店も多く、その下に数十名のローカルスタッフを率いることもあります。料理長には経営者目線でお店を切り盛りする手腕が期待され、店舗によっては売上管理や予算策定にも関与します。日本と違い現場の日本人が一人だけという状況も多々あるため、高い自立心と問題解決能力が求められます。

副料理長・スーシェフ

ヘッドシェフを補佐し、現場運営を支えるポジションです。調理長不在時の代理や、部門責任者としての役割を果たします。大規模店では日本人が料理長、ベトナム人が副料理長という組み合わせもありますが、日本人が副料理長として採用される場合もあります。
例えば「寿司シェフ2番手(副料理長)募集」という求人では、「能力次第ではヘッドシェフ待遇で採用の可能性あり」とされており、メニュー開発やスタッフ指導など料理長業務のサポートを行う内容でした。このように副料理長からスタートし、現地で信頼を得て料理長に昇格するキャリアパスもあります。

寿司職人(寿司シェフ):

寿司バーや寿司専門店でカウンターを任される職人です。握りや刺身の技術はもちろん、お客様との対話やカウンターでの所作も重要になります。高級寿司店では日本人寿司シェフが求められますが、最近では回転寿司や現地資本の寿司店も増えており、そうした店から日本人寿司職人へのニーズは根強く存在します。
寿司職人の場合、海外では寿司以外の和食も求められることが多く、オールラウンドに和食全般を作れる人が重宝される傾向があります。一方、本格的なおまかせ寿司を提供する店は富裕層マーケットのある都市に限られるため、そうした専門特化の職人求人はアジアでは多くありません (ベトナムの場合は広範な和食スキルがある方が採用ニーズにマッチします)。

シェフ顧問・料理コンサルタント:

店舗の立ち上げ時やメニュー監修のために短期契約で招聘されるシェフもいます。新規オープン時に数ヶ月間赴任して現地スタッフに技術指導し、店が軌道に乗ったら帰国するといったケースです。この場合、正社員ではなく契約コンサルタント扱いとなり、高額の日当や成果報酬が支払われることもあります。
特に複数店舗展開する企業が期間限定で日本人シェフを派遣し、現地スタッフの育成やレシピ標準化を行う例があります。短期派遣の場合でも労働許可証は必要ですが、就労ビザ免除規定(3ヶ月未満)を利用してビザのみで派遣することもあるようです。

キッチン体制と文化

ベトナムの日系レストランの厨房は、日本人シェフ(料理長)+ベトナム人スタッフという構成が一般的です。規模によりますが、小さな店舗では日本人1人に現地スタッフ数名、大箱店では日本人料理長の下に副料理長や部門シェフ(多くは現地人)、さらに多数の調理スタッフというヒエラルキーです。
約40名の現地スタッフをまとめる日本人料理長の求人例もあるほどで 、マネジメントスキルが重視されます。現地スタッフは日本食の基本技術を持つ人も増えており、まじめに働く人が多いですが、日本人同士とは文化も異なるため指導には工夫が必要です。
「叱って育てる」日本の職人文化は通じにくいことがあり、ベトナム人スタッフは過度に厳しい態度をとられると委縮してしまう場合があります。

そのため、緊張と緩和のバランスを取りつつ丁寧に教える、人前で怒鳴らない、といったコミュニケーションが円滑な現場運営につながります。ベトナム人は基本的に親日的で真面目ですが、指示待ちになる傾向もあるため、明確な指示とフォローアップを心がけると良いでしょう。

現地採用のヒント

求人情報は日系の転職サイトや人材紹介エージェント経由で探すのが一般的です。店舗によっては直接応募も可能ですが、現地担当者の対応が遅れがちになることもあり、人材紹介会社経由の方がスムーズだったという意見もあります。
面接では、自身の幅広い経験(和食以外の洋食経験も含め)や、現地の材料で代用して調理した経験などを伝えると評価されます。海外では予想外の食材不足や代替材料での対応が求められるため、「引き出しの多さ」や柔軟性が重視されます。採用側も「何でもこなせるオールラウンダー」を求める傾向があり、特定分野だけでなく幅広い料理に対応できる人材が歓迎されます。

5. 日本人シェフのベトナムでの生活

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生活コストと環境:

前述のとおり、ベトナムの物価は日本に比べ全般に低く、現地給与でも十分に生活できます。家賃は都市部の新築サービスアパート(家具・掃除付き)でも月500~800USD(7万~12万円)程度が目安で、会社の住宅補助があれば自己負担はさらに減ります。電気・水道代や通信費も月数千円程度と安価です。食費も現地の食堂でフォーやコムタム(定食)を食べれば一食数百円程度、日本料理材を使った自炊や日本食レストランでの外食は割高ですが、それでも日本国内より安いことが多いです。

例えばベトナムの庶民的な食堂で飲む生ビールは一杯100~200円程度、日本食材の醤油1本が日本の1.5倍くらいの価格、といった感覚です。交通は都市部ではバイクかタクシー移動が主流で、タクシーアプリ(Grabなど)を使えば初乗り100円台から利用できます。会社によっては通勤時にドライバー付き送迎車を出してくれる場合もあり、安全面の心配も軽減できます。

治安・医療:

ベトナムは政治的にも安定しており、都市部の治安は比較的良好です。深夜の一人歩きやスリには注意が必要ですが、基本的に親日的で優しい人が多い国民性のため、日本人が暮らしやすい環境と言えます。日本人コミュニティも存在し、ホーチミンやハノイには日本人向けの病院・クリニックがあり日本語通訳もいます。医療水準は私立病院では高く、会社負担の保険があれば高度な治療も受けられます。

日本食が恋しくなっても、都市部には日本人経営の居酒屋やスーパー(フジスーパー等)があり、日本食材や日用品も手に入ります。インターネット環境も整備されており、市内では高速通信が利用可能です。

日本人コミュニティとサポート:

ホーチミン市には約1万人超、ハノイにも数千人規模の日本人が居住すると言われており、日本人会や現地SNSコミュニティも活発です。飲食業の日本人ネットワークもあり、情報交換や助け合いが行われています。日本料理店同士の横のつながりも強く、困ったときに相談に乗ってもらえるケースもあるようです。日本大使館や領事館も定期的に生活安全情報を発信しており、在留届を出しておけば緊急時の支援も受けられます。

言語面では、ベトナム語は発音が難しく習得に時間がかかりますが、挨拶程度でも覚えると現地スタッフとの距離が縮まります。若いベトナム人は英語を話せる人も増えており、厨房でも簡単な英単語や現地語の料理用語で意思疎通を図っている例が多いです。いずれにせよ、文化の違いを尊重し柔軟に受け入れる姿勢が円満な現地生活の鍵となります。

労働環境の違い:

日本に比べるとベトナムの労働環境はワークライフバランスが取りやすいとも言われます。多くの日本食店では週6日勤務・週1日休みが主流ですが 、日本のようにサービス残業が常態化する雰囲気は少なく、雇用契約上の条件が明確に守られます。法律上、1日8時間・週48時間労働が基本で、超過労働には残業代支給が義務付けられています。店舗によっては週休二日制やベトナムの祝日(テト正月など)休暇を取り入れているところもあり 、働き方改革の余地がある職場もあります。

加えて、お盆や正月に帰国休暇を与える企業もあるなど、日本にいる家族との時間も確保しやすくなっています。南国特有のおおらかな気質もあり、緊張感が和らぐ一方で、自律的に動く習慣を持たないスタッフには日本人シェフがフォローを入れる場面もあります。
いずれにせよ、日本とは異なる労務管理の下で働くことになるため、法律と文化の両面を理解して適応する心構えが大切です。

6. キャリア機会と昇進の展望

海外でのキャリアアップ

ベトナムでの就労経験は、日本人料理人にとって大きなキャリア財産となり得ます。まず、若いうちから料理長など責任あるポジションを任されることで、マネジメントスキルや多店舗展開のノウハウを身に付ける機会が得られます。日本国内では何年もかかる昇進が、海外では実力次第でスピーディーに叶うことも珍しくありません。

実際、ある寿司チェーン店の元店長がマレーシアの高級寿司店に転職し、月給90万円に跳ね上がった例が報じられています。ベトナムでも同様に、才能あるシェフは高待遇で迎えられますし、その後アジア他国や欧米への転身も視野に入ります。

社内昇進

現地採用とはいえ、働く企業内での昇進チャンスもあります。例えば最初は副料理長クラスで入社し、現地で評価を高めて次の新店舗では料理長に抜擢される、といったケースがあります。特にベトナムの日本食市場は拡大中のため、新規出店計画が多数あります。

その都度、日本人シェフの需要が生じるため、現職で結果を出せば新店の立ち上げメンバーやエリアマネージャーへの昇格も期待できます。大型レストラン企業ではエグゼクティブシェフ(統括料理長)として複数店舗の料理部門を束ねるポジションもあり、実績次第でそうした役職に就くことも可能です。面接段階で「将来は多店舗管理や経営にも関わりたい」と意欲を示すことで、採用側にキャリアアップ志向をアピールすることもできます。

独立・起業の機会

ベトナム市場で経験を積んだ後、自身で店を開業する道も開かれています。現地では日本食人気が高く、優れた料理人であれば資本を出したいという現地オーナーや投資家とのマッチングも起こりやすい環境です。実際に、20年来の料理人人生を経てベトナムに渡り日本食店を6店舗も経営する日本人シェフがいるなど 、起業に成功している例もあります。

例えば大阪や海外で修業した日本人シェフが2019年にホーチミンで独立し、現地パートナーと組んで回転寿司チェーンを共同経営しているケースも報じられています。こうしたオーナーシェフへの道はリスクもありますが、ベトナムの若い市場では新規参入の余地が大きく、現地に根を下ろすことで夢を実現している先輩方も少なくありません。

その他のキャリア展望

ベトナムでの実績は、他国での高待遇オファーにつながる場合もあります。シンガポールや香港、欧米の和食レストランから声がかかることもあり、グローバルに活躍する足がかりになります。
また、日本に帰国してからも「海外勤務経験のある料理長」として、日本国内のホテルや和食店から重宝されるケースがあります。日本の人手不足も相まって、海外で磨いた語学力やマネジメント力は大きな強みです。

さらに、近年は日本企業によるベトナム現地での和食チェーン展開も進んでおり 、そうしたプロジェクトに現地経験者として本社側から関与するチャンスも考えられます。例えば国内外で和食店を展開する企業がベトナム出店の際に、現地経験を持つ日本人を中核メンバーとして招聘するといったことです。

キャリア形成のポイント

海外で働くにあたり重要なのは、長期的な視野でスキルと人脈を培うことです。
ベトナムで築いたネットワークはアジア圏の飲食業界に広がっており、例えばタイやインドネシアでの日系外食企業から声がかかることもあります。常に学ぶ姿勢を忘れず、現地スタッフからベトナム料理の知見を得たり、新しい調理技法を取り入れたりといった柔軟性もキャリアアップには不可欠です。

また、将来独立を目指すなら現地の法律(会社設立や出資比率の規定等)も学んでおくと良いでしょう。幸い、ベトナムは東南アジアでも経済成長が著しく、外食産業も右肩上がりのため、努力次第で「昇進の機会」「収入アップ」「夢の自分の店オープン」といった目標を実現しやすい土壌があります。日本人和食シェフならではの繊細さと現地の活気を融合させ、ぜひ充実したキャリアを築いてください。

以上、ベトナムで働くことを検討する和食料理人の皆様に向け、市場動向からキャリア展望まで幅広く情報をまとめました。
ベトナムでの挑戦は不安もあるかもしれませんが、需要旺盛な成長市場で腕試しをする絶好の機会です。本ガイドの情報を踏まえ、ぜひご自身のスキルアップと夢の実現に役立ててください。
現地での活躍を心より応援しています。

参考文献・情報源:
・日本貿易振興機構(JETRO)ホーチミン事務所報告
・ONE-VALUEレポート 、ポステベトナム現地ニュース
・B&Company市場調査レポート
・在ベトナム日系求人情報 、現地採用者ブログ
・WORLD POST求人情報 、他.

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