UAE・ドバイで日本人料理人として働くには?公式ガイド
30~40代の日本人料理人を主な対象に、UAE(特にドバイ)で働く際に知っておきたい情報をまとめました。和食ブームが続く中東のセレブ都市ドバイでは、日本人料理人への需要も高まっています。求人市場の傾向から給与相場・待遇、ビザ取得、現地の生活情報、文化的注意点、さらには現地で活躍する日本人料理人の声や日本食市場の展望まで、最新情報(2024~2025年)に基づきご紹介します。
1.求人市場の傾向 ~ドバイで求められる日本人料理人~
UAEではここ数年、日本食レストランの人気が急上昇しています。コロナ禍の影響も限定的で、日本食レストランの店舗数は約340店舗にまで拡大しました。特にドバイでは、海外でイメージされる寿司や天ぷらなどの本格和食を提供する中高価格帯レストランが多く、ミシュラン星獲得店も誕生しています。
一方で近年はうどん・ラーメン専門店や日本式ベーカリーなどカジュアル業態も増え、日本食の選択肢が広がっています。こうした高級店から大衆店までバランスよく増加傾向にあり、日本食は「ヘルシー」というイメージもあってUAE人にも受け入れられつつあります。
こうした市場動向を背景に、ドバイでは寿司職人や和食シェフへの求人ニーズが高い状況です。高級和食店だけでなく、居酒屋スタイルで焼き鳥やお好み焼きといった日本の大衆料理を提供する店も進出しています。実際、ミシュランガイドにも寿司店や創作和食店が複数掲載されるなど、日本食の評価は非常に高まっています。
そのため、確かな和食の調理スキルを持つ人材はもちろん、英語でのコミュニケーションや多文化環境への適応力も求められる傾向です。現地企業で働くには高い英語力と異文化理解が必要とされますが、特に和食ならではの丁寧な仕事ぶりや「おもてなし」精神は大きな強みになります。
ドバイの飲食業界では、日本人ならではの繊細な技術とサービスに期待が寄せられており、寿司職人・和食料理長・パティシエなど幅広い職種で求人を見かけます。
参考:
・日本貿易振興機構JETRO 「UAEにおける日本食レストラン市場調査(ドバイ発)」
・ARAB NEWS 「ドバイの日本食レストラン数軒がミシュランを獲得」
・ドバイ総合研究所 「ドバイで働く日本人の実際と日本では得られない恩恵を解説」
2. 給与・待遇の相場 ~現地通貨と円換算・手当など~
ドバイの日本食レストランで働く料理人の給与は、経験やポジションによって幅がありますが、概ね月給9,000~15,000AED程度が一つの目安です。日本円に換算すると約36~60万円/月(1AED≒40~41円)ほどになります。例えばドバイ市内のホテル和食店の和食シェフ求人では月9,000~15,000AED(経験による、手取り)といった提示がみられます。これは年収にすると約440万~740万円に相当します。
また、高級店の料理長クラスになれば月給16,000~20,000AED超(64万~80万円)といった高待遇もあり、求人例では月20,000~35,000AED(約80万~140万円)のヘッドシェフ募集も確認できます。ミシュラン星獲得店の立ち上げや5つ星ホテルの料理長クラスでは、年収1,000万円以上も十分狙えるでしょう。
UAEには所得税がないため、提示される給与は基本的に手取り(net)額となります。
さらに雇用主によっては、給与とは別に住居手当(社宅の提供や住宅手当)や食事補助、通勤送迎、年1回の航空券支給などの福利厚生が付くこともあります。実際、ドバイの和食レストラン求人では「社宅・住居手当あり」「健康保険あり」を条件に含むケースも見られます。UAEの法律で医療保険への加入は企業に義務付けられており、居住ビザ取得の条件にもなっています。
したがって現地採用でも通常、雇用主が民間医療保険を用意してくれます。保険適用があれば医療費自己負担も軽減されるため安心です。
チップやサービス料については、UAEは米国ほど厳格なチップ文化はありませんが、良いサービスに対して心づけを渡す習慣はあります。法的な義務はないものの、レストランでは会計の10~15%程度をチップとして渡す客も多いのが実情です。高級店ではあらかじめサービス料が加算されている場合もあり、その場合追加のチップ不要と案内されます。
とはいえサービス業従事者は内心チップを期待しているとも言われ、実際に質の高いサービスでチップを受け取る日本人スタッフもいるようです。特にドバイは富裕層が多いため、常連客からまとまった額のチップをもらうケースもありえます。
以上を総合すると、給与+各種手当+チップが日本人料理人の収入源となり、物価は高いものの手取りの多さと厚待遇で十分な貯蓄も可能と言えるでしょう。
参考
・日本貿易振興機構JETRO 「外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用」
・BITEX 「【ドバイのチップ事情】チップの支払いは義務ではありません」
・ドバイ総合研究所 「ドバイで働く日本人の実際と日本では得られない恩恵を解説」
3. 就労ビザと在留手続き ~取得プロセスと家族帯同可否~
UAEで働くには就労ビザ(労働許可付きの居住ビザ)が必要です。基本的に現地で雇用主となる企業がスポンサーとなり、ビザ取得手続きをサポートしてくれます。JETROによれば、UAEで就労予定の外国人は入国前に労働許可(ワークパーミット)を取得し、入国後に居住ビザを取得する流れとなります。
まず日本で雇用契約を結ぶと、雇用主がUAE当局に申請して労働許可を発行します。その後、発行された就労ビザもしくは入国許可に基づいてUAEに渡航し、現地で健康診断(血液検査や胸部X線など)を受けた上で居住ビザ(在留許可)と身分証であるエミレーツIDを取得します。
就労ビザ申請に必要な書類は主に以下のとおりです。
・有効なパスポート
・顔写真
・雇用契約書
・健康診断書
・現地当局指定の申請書類一式
日本の警察署で発行される無犯罪証明書が求められる場合もあります。
また学歴証明書や調理師免許など職種によって提出書類が追加されることもありますが、通常は雇用主側の人事担当者や代行エージェントが申請を進めてくれるため、指示に沿って必要書類を準備すれば問題ありません。ドバイを含むUAEでは就労ビザの有効期間は2年間(更新可)であることが一般的です。契約更新に伴いビザ延長手続きを再度行えば、長期の滞在・就労も可能です。
家族の帯同については、一定の条件を満たせば配偶者や子供をUAEに呼び寄せることができます。UAE政府の公式情報によれば、家族ビザ発行のスポンサー(帯同元)となるには月収最低4,000AED以上、または3,000AED+住居提供が必要とされています。この基準は日本円にして月収約12~16万円程度と比較的低めですが、実際には家族を養うにはそれ以上の収入が望ましいでしょう。
要件を満たせば、結婚証明書や出生証明書(アラビア語翻訳・公証)を提出して配偶者ビザ・子女ビザを申請できます。家族ビザの手続きも基本的には現地で代行業者を通じて行い、医療保険加入や健康診断などが必要です。
ドバイ首長国では2016年より居住者(駐在員含む)は強制医療保険加入が義務となっているため、帯同家族分も保険への加入・証明提出が求められます。なお帯同家族の就学先探し(日本人学校やインターナショナルスクール)や就労の可否(配偶者が現地就労する場合は別途就労ビザ要)が課題となる点には留意しましょう。
参考
・Exgrow properties 「日本人がドバイでビザを取得する方法:完全ガイド2024」
・日本貿易振興機構JETRO 「外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用」
・JCME 「ドバイに移住する条件。7種類のビザを取得する基準をそれぞれ解説」
・UAE 「Residence visa for family members」
4. 現地での生活情報 ~住居・物価・食・交通・医療・治安~
4-1. 住居と家賃相場
ドバイで生活する上で家賃は最も大きな支出の一つです。近年の不動産市況により賃料は高騰傾向にあり、アパートの平均家賃は年間約90,000AED(約360万円)に達しています。
日本の感覚では月々の家賃に換算して30万円ほどになる計算で、東京23区と比べても高額です。例えば日本人にも人気のマリーナ地区では、1LDKで月約30万円(約7,500AED)が相場というデータもあります
高級エリアの一室や広めのファミリー向け物件になれば、年間家賃が200,000AED(800万円超)といった例も珍しくありません。
もっとも、多くの賃貸契約は年払いまたは半年払いが主流で、日本のような月払いは一般的ではありません。契約時に1年分前払いか、半年×2回払い(小切手渡し)などの形態となるため、入居初期にはある程度まとまった資金が必要です。加えてデポジット(敷金に相当、通常家賃の5~10%)や仲介手数料(家賃の5%程度)も発生します。
したがって、雇用契約で住宅手当が出る場合は大きな助けになります。会社が社宅提供するケースでは自己負担ゼロで入居できますし、手当として家賃の一部を補助してくれる場合もあります。
都市部のコンドミニアムタイプ(プール・ジム付き高層アパート)に住めば生活は快適ですが、その分コストは高いです。一方、郊外や隣接首長国(例:シャルジャなど)に住めば家賃を大幅に抑えることも可能です。ただし通勤時間や交通渋滞の問題もありますので、勤務先との距離や利便性とのバランスを考える必要があります。治安の良さはどの地域でもおおむね安心できるため、予算に応じて住む場所を検討するとよいでしょう。
参考
・DubaiLife 「ドバイの家賃がかつて無いほど上昇」
・MDS Groupe 「ドバイの賃貸相場や契約【日本人はぼったくられる】」
4-2. 日本食材の入手と食生活
「ドバイで日本の食材は手に入る?」――ご安心ください、基本的になんでも入手可能です。実はドバイには日系・アジア系の食材スーパーが充実しており、例えば「Zen Japanese Supermarket」や「Fujiya Supermarket(フジヤ)」では日本産の食材から調味料、食器に至るまで揃います。さらに韓国系スーパーの「1004 Gourmet」も日本の調味料や冷凍食品を豊富に扱っており、日本人駐在員に人気です。
大型スーパーのCarrefour(カルフール)やSpinneys(スピニーズ)、Waitrose(ウェイトローズ)には日本食材コーナーが設けられ、醤油・みりん・豆腐・味噌・カレールウ・即席麺など主要なものは手に入ります。お米も日本米(カリフォルニア産コシヒカリ等)が売られており、刺身用の魚や和牛も高級スーパーで調達可能です。
ただし、日本からの輸入品は価格が割高になる点に留意しましょう。日本の食材や日本食レストランの利用は非常に高価である、と現地在住者も感じるほどです。例えば日本の即席ラーメン1袋が数百円、醤油1本が1,000円以上することも珍しくありません。それでも「お金を出せば基本的になんでも食べられる」環境ではあるため、日本の味が恋しくなった際は必要経費と割り切って購入する日本人が多いようです。
また和食レストランも多数あり、高級寿司から居酒屋まで選択肢は無限と言ってよいでしょう。外食は総じて高額ですが、Entertainerなどクーポンアプリを活用して半額にする裏技もあります。
なお豚肉製品については非イスラム教徒向けに取り扱う店舗(例:Spinneysのポークコーナー)でベーコンやとんかつ用肉が入手できます。調理酒(日本酒・みりん)は免税店や酒類販売店で購入できますが、居住者はアルコール購入許可証が必要だった時期もありました(2023年に法律緩和され許可証不要化)。
総じて、ドバイにいながら日本とほぼ同じ食生活を送ることも可能ですが、その分コストは嵩むので外食を控え自炊中心にするなどの工夫で出費を抑えるとよいでしょう。
参考:
・ドバイ不動産お役立ち 「【ドバイで味わえる本格日本食レストランガイド】をドバイ在住者おすすめ!」
・Gates Dubai ONLINE 「ドバイの和食事情。おすすめの10店舗、日本人が食べやすいものとは?」
・note 「ドバイの買い物・食事事情」
4-3. 交通手段と移動のポイント
ドバイは車社会であり、公共交通機関だけで暮らすのはやや不便です。市内には地下鉄(メトロ)や路面電車(トラム)、バスも整備され観光地間の移動はできますが、公共交通がカバーするエリアは限定的で、特に通勤や住宅地の移動では不便なこともあります。そのため、多くの在住者はタクシーや配車アプリ(Uberや現地のCareem)を日常的に利用しています。タクシー料金は日本に比べると安く、初乗りは12AED(約360円)程度と手頃です。市内の移動ならだいたい20~40AED(800~1,600円)ほどで収まることが多く、「ちょっとタクシーで買い物へ」が気軽にできる環境です。
もちろん渋滞はありますが、主要エリア間にはメトロのレッドライン(南北)・グリーンライン(市中心部)が通っており、時間帯によってはメトロで移動すれば渋滞回避も可能です。長期的には、やはり自家用車があると行動範囲が格段に広がります。日本の運転免許からUAEの免許への切り替えも比較的簡単に行えます(日本大使館の証明と筆記試験のみで発給可能な場合あり)。
勤務先によっては社員送迎バスやシャトルサービスを提供していることもあります。例えばホテル系列のレストランに勤める場合、スタッフ寮からホテルまでバス送迎が出るケースがあります。逆に街中の独立系レストラン勤務の場合は自力通勤となるため、住居選びの際に職場からの距離も考慮しましょう。ドバイは夏は50℃近くまで気温が上がり徒歩移動が困難になるため、どのみち職住近接か車移動が基本になります。
なお近年はクリーム色のタクシー(普通のタクシー)に加え、女性専用のピンクタクシー(女性ドライバー)もあります。通勤時間帯はアプリで配車したほうが確実に乗れる場合も多いです。また空港からの移動にはタクシーの他メトロも利用可能ですが、荷物が多い場合はタクシーが便利でしょう。総じて、ドバイでは「Door to Door」での車移動が基本と心得ておくと良いです。
参考
・LOCO TABI 「【2025】ドバイのタクシーの乗り方完全ガイド〜料金、配車アプリ(Uber・Careem)、Q&A」
・Ollie-Style 「ドバイを移動手段から考える!快適な交通手段とホテル選びのコツ」
・ドバイのトリセツ 「【ドバイ旅行者向け】タクシーの乗り方を写真で解説!ドバイ国際空港からの利用も説明」
4-4. 医療事情と健康管理
UAEの医療水準は総じて非常に高いです。ドバイには欧米人医師が多数在籍する国際病院や、各国のクリニックが軒を連ねるヘルスケアシティもあり、質の高い医療サービスが受けられます。公用語は英語ですので、英語での意思疎通が基本となりますが、必要に応じて各大病院には通訳サービスもあります。
日本人駐在員や家族が利用することの多い医療機関として、Mediclinic(メディクリニック)やAmerican Hospital Dubai、サウジ・ドイツ病院などが挙げられます。日本語対応のクリニックは限られますが、日本語を話す医師がいることもあります(例:ドバイ・ロンドン クリニックに日本人医師が在籍したことがあるとの情報もあります)。
先述の通り、ドバイ首長国では医療保険への加入が義務となっており、企業は従業員とその扶養家族に医療保険を提供する責任があります。そのため、日本人料理人として就職する場合も自動的に民間医療保険に加入することになります。保険プランによりますが、一般的な診療・治療であれば自己負担はゼロ~一部負担で済みます。医療費は保険なしだと非常に高額(風邪の診察と薬で数万円等)になるため、保険カードは常に携帯し、万一の病気やケガの際にはまず提携クリニックを受診しましょう。勤務先によっては健康診断を年1回実施してくれるところもあります。
ドバイで生活する上で留意すべき健康面のポイントとして、暑熱対策があります。夏場は外気温が危険なほど高くなるため、室内外の温度差で体調を崩すこともあります。水分・塩分補給を心がけ、無理に屋外活動しないようにしましょう。食品衛生や水質は概ね良好ですが、水道水は硬水のため飲料には不向きです(飲むなら浄水器を通すか、市販のミネラルウォーターを利用)。外食も衛生管理はしっかりしていますが、慣れないスパイスや油でお腹を壊すケースもありますので、徐々に現地の食に慣れるようにすると良いでしょう。
参考:
・日本貿易振興機構JETRO 「外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用」
4-5. 治安と安全面
UAEの治安は世界トップクラスに良好です。国際的な犯罪安全指数ではUAEの安全指数は世界第3位との統計もあり(ちなみに東京は32位)、中東の中でも群を抜いて安心できる国と言えます。日本の外務省も2024年現在、UAE全土を危険度レベル0(ごく安全)に指定しています。ドバイ警察はパトロール体制が充実しており、市内の至る所に監視カメラ網が張り巡らされています。
そのため、一般犯罪や凶悪犯罪は非常に少なく、女性が夜に一人で歩いても大きな不安を感じないほどです。もっとも、安全だからといって無防備で良いわけではありません。観光客が集まるエリアではスリや置き引きなどの軽犯罪はゼロではないため、財布やスマホの管理はしっかりしましょう。
特に日本人は治安の良さに油断してバッグを無造作に置きがちですが、海外では基本中の基本として注意が必要です。また交通事故にも注意です。車社会ゆえ交通事故率は高めであり、歩行者優先の意識が日本ほど強くありません。横断歩道でも車が止まらないことがあるので十分確認して渡る習慣をつけてください。
宗教・法律面でのタブーも安全に直結します。イスラム教国ではドラッグに対する罰則が非常に厳格であり、少量の所持でも長期刑が科されるため絶対に関与してはいけません。アルコールも路上での飲酒や公共の場での酩酊は禁じられています。喧嘩や公然わいせつなどもってのほかで、現地の法律を尊重した行動が求められます。
逆に言えば、住民が法律を守り規律を保っているからこそ犯罪が少ないとも言えます。夜間も繁華街は人通りが多く店も深夜まで営業しており、女性だけの外出も比較的安心です。こうした「安全で快適」な生活環境も、ドバイが海外就職先として人気を集める理由の一つでしょう。
参考:
・ドバイのトリセツ 「ドバイの治安は? 女性同士や子連れの旅行にもおすすめの理由」
・LOCO TABI 「ドバイは治安が良いって本当?日本人が旅行中に気をつけたい犯罪や安全・危険な地域
・ドバイ不動産お役立ち 「【ドバイとアブダビの治安ランキング比較】安心して暮らせる都市の選び方」
・Reheat 「ドバイ不動産投資のポイント「治安の良さ」
・NEWT 「【2025年最新】アラブ首長国連邦の治安は?危険な場所や注意点を解説」
5. 宗教・文化に関する注意点 ~イスラム文化と職場慣習~

5-1. イスラム教への配慮と習慣の違い
UAEはイスラム教が国教の国です。生活やビジネスの場でもイスラム教の習慣や規律への配慮が欠かせません。まず食の面では、豚肉は禁止(ハラーム)であり、日本のように豚を使った料理は基本的に提供できません。またアルコールも厳格に管理されており、レストランで提供できるのは酒類提供ライセンスを持つ店舗に限られます。高級ホテル内の和食店などではライセンスがあるため日本酒やビールを提供していますが
、単独店舗の居酒屋などではお酒抜きで営業している場合もあります。
郷に入っては郷に従えで、豚肉不使用メニューへのアレンジ(例:とんかつをチキンカツに、豚骨ラーメンを鶏ガラや魚介出汁にする等)も求められるでしょう。実際ドバイの和食店『Sushi』(グランドハイアット内)では豚肉の提供を行わず、調理酒もイスラム圏用に調整しつつ、日本のビールや日本酒はホテルの許可の下で提供しているとのことです。
ラマダン(断食月)期間も重要なポイントです。ラマダン中、ムスリム(イスラム教徒)は日の出から日没まで一切の飲食を断つため、日中は原則公共の場での飲食禁止となります。外国人である日本人も例外ではなく、たとえ非ムスリムでも人前での飲食・喫煙は罰則の対象となり得ます。職場でもラマダン時は一部店舗を除き昼間営業を控えたり、従業員は裏で水分補給するなど配慮が必要です。
労働時間もラマダン期間中は法定で2時間短縮されます。これはムスリム・非ムスリム問わず全従業員に適用され、例えば通常1日8時間勤務ならラマダン中は6時間勤務となります。飲食業ではラマダン明けの夕方(イフタール:断食明けの食事)から夜にかけて繁忙となるため、シフト調整が行われます。イード(断食明け大祭)の時期には数日間の祝日休暇があり、多くの人が休みを取ります。宗教行事に合わせた営業計画やスタッフの休暇配分も考慮しなければなりません。
職場での礼拝への理解も大切です。ムスリム従業員は1日5回の礼拝時間がありますので、混雑時以外は短時間でも礼拝のため抜けることを許容する文化があります。特に金曜日の礼拝(ジュムア)は正午頃に大規模なお祈りがあるため、金曜はムスリム男性社員が昼前後に不在となる場合があります。
現在UAEの週休制度は土日休みに移行しつつありますが、金曜昼は特別という認識は残っています。日本人としては「業務中に抜けるなんて」と感じるかもしれませんが、宗教上重要な行為ですので尊重しましょう。
服装面では、ドバイは比較的自由度が高く外国人に寛容ですが、過度に肌を露出するのは控えるべきです。職場ではコックコートなど制服がありますし、街中でも普通にTシャツ・ジーンズで問題ありません。ただしモスク(礼拝所)を訪れる際は女性はスカーフで髪を覆うなどのルールがあります。挨拶の作法にも違いがあります。男性がムスリム女性と挨拶する際は、相手から手を差し出した場合のみ握手します(宗教上、女性が知らない男性と肌を合わせることを避ける方もいるため)。仕事上ではそこまで意識する場面は少ないかもしれませんが、知っておくとよいでしょう。
参考:
・飲食店ドットコム 「ドバイで奮闘する日本人シェフをインタビュー。和食の伝道師として世界のセレブを魅了!」
・UAE 「Ramadan」
5-2. 言語と言葉の壁
言語はドバイで働く上で避けて通れないポイントです。職場の共通言語は英語となるケースがほとんどです。ドバイの飲食業界ではシェフやサービススタッフとして、フィリピン・インド・ネパール・欧米諸国など様々な国籍の人が働いています。
そのため厨房内のコミュニケーションも英語が主になります。実際にドバイの五つ星ホテル内和食店でチームリーダーを務める日本人シェフ(瀧尾嘉信さん)も「キッチンメンバーは日本人、フィリピン人、ネパール人のチームで、共通言語は英語」と語っており、海外で働く難しさを日々痛感しているといいます。料理人として海外で活躍するには、流暢でなくとも業務に支障ない程度の英語力が求められます。
ただ、「英語があまり話せないまま勢いでドバイに来てしまった」という日本人シェフの体験談もあるように、現地に飛び込んでから実地で習得している人もいます。職場で使う英語は専門用語や定型表現が多いため、働きながら慣れていくことも十分可能です。むしろ様々な国の英語アクセントに触れ、コミュニケーション力が磨かれるでしょう。
加えて、お客様対応でも英語が基本です。高級店では欧米や現地富裕層のお客様が英語で会話してきますし、注文も英語です。接客担当でなくても、シェフがカウンター越しに説明を求められる場面もあります。メニューの食材名や調理法を英語で説明できるよう事前に準備しておくと安心です。
興味深い例として、ミシュラン1つ星を獲得した寿司店「Hōseki」を率いる杉山将大シェフは、スタッフ全員日本人で固めながらも、ゲストとのコミュニケーションのために「ありがとう」や主要な魚の名前を10か国語ほど覚えたといいます。英語が通じないゲストもいるため、各国語でお礼を伝えたり寿司ネタを説明できるよう努めたそうです。
こうした姿勢が評価され、「ただ寿司がおいしいだけでなく、スタッフの細やかな気配りに感動する」とファンが増えているとのこと。言葉の壁は努力次第で乗り越えられ、お客様との距離を縮める武器にもなりえます。
参考:
・飲食店ドットコム 「ドバイで奮闘する日本人シェフをインタビュー。和食の伝道師として世界のセレブを魅了!」
・GOTHE 「ミシュラン星獲得。ドバイにある、世界のVIPを虜にする鮨屋とは」
5-3. 職場文化と働き方の違い
ドバイの職場は多国籍・多文化な環境であり、日本の職場文化とは様々な違いがあります。まず人間関係では、年功序列や上下関係は日本ほど厳しくありません。上司でもファーストネームやニックネームで呼び合い、フランクに意見交換する職場も多いです。
ただし組織によっては日本人が料理長を務め、日本流のきめ細かな指導がなされる所もあります。たとえば前述の杉山シェフの寿司店ではサービスのマニュアルを設けず、和の心でもてなすという日本流の指導を徹底しつつ、一方で現地スタッフには英語や他言語でコミュニケーションする柔軟性も持たせています。日本的な厳しさとグローバルな柔軟性のバランスを取った職場も多いでしょう。
勤務時間や休暇制度にも違いがあります。UAE労働法では週48時間労働が基本で、それを超える労働には時間外手当が発生します。飲食業はシフト制で週6日勤務も珍しくありませんが、その場合1日あたりの労働時間は短めに調整されます。逆に週5日シフトの店舗もあります。金曜・土曜が休みだった伝統もありましたが、近年は土曜・日曜休みに移行する企業も増えました(サービス業は週末営業が基本のため、一概には決まりません)。
有給休暇は法定で年間30日程度与えられ、休暇取得も比較的自由です。日本と違い長期休暇をまとめて取得する人も多く、夏場の一時帰国や旅行に2~3週間連続で休むケースもあります。店側もその前提で人繰りしますので、有給を取りづらい雰囲気は日本より少ないでしょう。
働き方の価値観も異なり、ドバイでは効率よく働き定時に帰ることが推奨される傾向があります。日本のように「忙しくても残業してやり遂げる」のが美徳とは限らず、シフト通りに交代しプライベートを大切にする文化です。そのため、休みの日に職場から呼び出されるようなことも基本的にありません(緊急時を除く)。ただしオープニング期間やイベント時など繁忙期は残業が発生し、その際はしっかり手当が支払われます。総じてワークライフバランスは日本より取りやすい環境と言えます。
文化の違いで戸惑うかもしれない点として、スタッフの国民性があります。例えば時間や期限にルーズな人がいたり、自己主張が強い人がいたり、逆に指示待ちで自主性に欠ける人もいたりと様々です。これは出身国の文化や教育の違いによるものですが、多様なチームをまとめるリーダーシップが求められる場面も出てくるでしょう。日本人の几帳面さや責任感は高く評価されますが、同時に「細かすぎる」と思われることもあります。臨機応変さと寛容さを持ってチームワークに臨むことが大切です。
参考
・media.camel-ftk.com
・note.com
参考:
・CAMELメディア 「【魅力発見】ドバイのライフスタイル!日本との違いとは?」
・note 「竹花貴騎が語るドバイと日本の働き方の違いと仮想通貨活用法:税金・不動産購入の実体験を交えて」
6. 現地で働く日本人料理人の声 ~体験談と成功の秘訣~
最後に、実際にドバイで活躍している日本人料理人の事例をご紹介します。現地で働く先輩たちの体験談から、リアルな声と成功のヒントを伺いましょう。
● 五つ星ホテル和食店・チームリーダー 瀧尾嘉信さんの場合
瀧尾さんは2016年よりドバイのグランドハイアットホテル内の和食店『Sushi』で寿司シェフとして腕を振るっています。当初「働く場所がイスラム圏と聞いて不安」だったそうで、「もうお酒は飲めないのか?豚肉は食べられないのか?」と生活・仕事環境が一変することに戸惑いを感じたと振り返ります。
しかし実際に渡航してみるとすぐに「来てよかった!」と前向きな気持ちに切り替わったそうです。ドバイでは豚肉の提供は禁止なのでお店でも豚肉料理は出しませんが、勤務先のホテルが酒類提供ライセンスを持っているため日本のビールや日本酒も提供しています。
また料理に使う魚は築地市場から取り寄せ、醤油や味噌など調味料もすべて日本のものを使用しているとのこと。異国の地でも日本と同じクオリティの食材を揃え、本格的な和食を追求できている点にやりがいを感じているようです。
瀧尾さんのキッチンチームは多国籍で、前述の通り日本人以外にフィリピン人・ネパール人などで構成されています。瀧尾さん自身はチームリーダーとして現場を束ねていますが、共通言語は英語で、最初は英語に苦労したそうです。「英語もまともに話せない状況でドバイに来てしまったので大変でした(笑)」と語っていますが、今では現地のスタッフと力を合わせて日々厨房を回しています。
日本人は瀧尾さん含め2人しかいない環境ですが、「日本の食材を使い、日本人として料理を提供する意味」を改めて感じながら、海外で挑戦する毎日だと言います。セレブを相手に自分の寿司が評価される喜びも大きく、「勢いも大事。飛び出してよかった」と充実した表情で語っていました。
参考:
・飲食店ドットコム 「ドバイで奮闘する日本人シェフをインタビュー。和食の伝道師として世界のセレブを魅了!」
● ミシュラン星獲得寿司店・杉山将大シェフの場合
杉山シェフは2018年にドバイのブルガリ・リゾート内に寿司店「Hōseki」を立ち上げ、2022年に同店でミシュラン1つ星を獲得した実力派です。彼は「日本にこだわった店作り」を信条としており、なんと働くスタッフ10名全員を日本人で固めたといいます。接客マニュアルも用意せず、スタッフ各自がゲストに合わせたおもてなしを臨機応変に提供するスタイルを徹底しました。ただ寿司が美味しいだけでなく、細やかな気配りに感動するからこそファンが増えていくーーまさに日本式のサービスで世界のVIPを虜にしているのです。
とはいえ、多国籍なお客様への対応には工夫も凝らしています。冒頭で触れたように、杉山シェフ含むスタッフは「ありがとう」や魚の名前などを各国の言葉で覚えたとのこと。英語が話せないゲストもいる中でコミュニケーションを取るため、自分たちから歩み寄った形です。「Hōseki」は今や「ドバイNo.1の鮨店」と呼び声も高く、要人や有名人がお忍びで訪れる存在になりました。
杉山シェフは「ドバイでは正統派の鮨を提供する店が少なかったので、自分が本物を広めたい」という思いで渡航を決意したそうです。その志の通り、日本から職人を呼び寄せ、本格江戸前寿司と和のおもてなしで成功を収めています。
参考:
・GOTHE 「ミシュラン星獲得。ドバイにある、世界のVIPを虜にする鮨屋とは」
● その他の日本人シェフの活躍例
上記以外にも、ドバイやUAEで活躍する日本人料理人は多数います。例えばドバイの高級和牛寿司店「TakaHisa」では日本人シェフの行方隆史さん・上田久雄さんがタッグを組み、現地の富裕層に和牛と寿司の融合コースを提供して高い評価を得ています。2025年のイード休暇中には、日本の寿司店「鮨し人」から木村泉美シェフを招き、行方シェフらとの期間限定おまかせイベントを開催するなど話題を集めました。
また和食だけでなく、日本人パティシエやベーカリーシェフも進出しています。ドバイの有名カフェでシグネチャーデザートを生み出す日本人パティシエや、日系ベーカリーで日本のパン文化を広める職人もいます。さらに近年注目なのはラーメン業態で、ドバイで人気のラーメン店「Kinoya」は現地の日本食愛好家が開いた店ですが、味づくりには日本のラーメン職人の知見が活かされています。2022年にはその「Kinoya」が中東のラーメン店として初めてミシュラン・ビブグルマンに選出されました。
このように、ドバイでは多くの日本人料理人が自らの技を武器に挑戦し、成功を収めています。共通して言える成功の秘訣は、「日本人としての強み(高い技術やおもてなし精神)を活かしつつ、現地の文化やニーズに適応する柔軟性」を持っていることです。英語力や文化適応力に不安があっても、実際に飛び込んで努力と工夫を重ねれば道は拓ける――先輩たちの姿がそれを証明しているのではないでしょうか。
参考:
・ARAB NEWS 「著名日本人シェフがドバイでイード期間限定のおまかせ料理を開催
7. UAEにおける日本食市場の評価と将来展望
最後に、UAEの日本食市場の評価と今後の見通しについて触れておきます。前述のとおり、UAEでは日本食レストランの数が2016年の196店から2021年には288店へと約1.5倍に増加しました。さらに2023年時点では340店前後に達しているとの調査もあり、その成長ぶりは目覚ましいものがあります。新型コロナ禍で他国のレストラン市場が打撃を受ける中、UAEの日本食レストラン市場はむしろ拡大傾向を維持しました。背景には、富裕層を中心に日本食の評価が高く、需要が底堅いことがあります。
実際、ドバイの日本食は「高品質でヘルシー」とのイメージが定着しつつあり、現地の富裕層のみならず中間層にも浸透し始めています。和食=高級という図式だけでなく、最近では価格帯も低価格~高価格までバランスよく店舗が増加しています。手頃な価格で和定食を提供する店や、ファストフード感覚の寿司チェーン、テイクアウト専門の弁当屋なども登場し、多様なシーンで日本食が楽しまれています。
また、和食以外の日本食文化にもスポットが当たっています。例えば「日本のパン」が密かなブームになっており、アンパンや焼きそばパンといった日本の菓子パン・惣菜パンを販売するベーカリーが人気を博しています。背景には「甘じょっぱい味がドバイの人々に合った」「日本の漫画の影響で焼きそばパンへの興味が高まった」等の分析もあり、日本食文化全般への関心が広がっていることが伺えます。
さらに、ミシュランガイドや国際的な賞賛も日本食市場の評価を押し上げています。2022年にドバイでミシュランガイドが創刊されると、日本食レストランが多数エントリーしました。2024年版では、「佐月 by Tetsuya」や「寶石(Hōseki)」がミシュラン1つ星を獲得し、ラーメン店「Kinoya」や焼鳥店「Reif Kushiyaki」がビブグルマンに選出されました。
また「99 Sushi」「Zuma」「Takahisa」など多くの和食・寿司店がミシュランの候補リストに名を連ねています。こうした国際的な評価により、“ドバイで美味しい日本食が食べられる”という認識が世界中の食通に広まりつつあります。今後はミシュラン星を目指して新規出店する日本人シェフも増えるかもしれません。
展望として、JETROの分析では「今後も日本食レストラン市場は拡大する」と見込まれています。中東富裕層だけでなく、欧米やアジアからの観光客・駐在員も増えており、多様な顧客層に支えられているためです。2021年のドバイ万博や、その後のサウジアラビアなど近隣諸国の発展も追い風となり、湾岸地域全体で和食需要は伸びていく可能性があります。
実際、隣国サウジアラビアでも高級和食店の進出が相次いでおり、UAEと合わせて中東市場を攻略しようとする日本食ビジネスが活発化しています。こうした動きは日本人料理人にとっても新たな活躍の場の拡大を意味します。ドバイを拠点に、中東全域で経験を積むチャンスも出てくるでしょう。
総じて、UAE(特にドバイ)で日本人料理人が働く環境はますます整い、将来性も明るいと言えます。重要なのは「正確な情報収集と十分な準備」をした上で飛び込むことです。本記事で述べたように、求人動向や待遇、生活面の注意点を押さえておけば不安は軽減されるでしょう。あとは日本で培った技と情熱を持って現地にチャレンジすれば、必ずや道は開けるはずです。
ドバイで和食の魅力を発信したいという志を持つ料理人の皆さん、ぜひその一歩を踏み出してみてください。
中東の地であなたの料理が称賛される日も、そう遠くないかもしれません。
参考:
・JCME 「ドバイで日本食を楽しめる本格レストラン3選!今、日本食ブームに乗るべき理由を解説」
・日本貿易振興機構JETRO 「UAEにおける日本食レストラン市場調査(ドバイ発)」
・FOOBAL 「あんぱんや焼きそばパンも 日本のパンが流行している理由をドバイの文化から紐解く 今後の日本食人気も期待」
・ARAB NEWS 「ドバイの日本食レストラン数軒がミシュランを獲得」
・UAE 「Residence visa for family members」
・飲食店ドットコム 「ドバイで奮闘する日本人シェフをインタビュー。和食の伝道師として世界のセレブを魅了!」