カナダで働く日本人料理人ガイド:求人市場から生活情報まで
近年、カナダにおける和食ブームが起きており、日本人料理人の活躍の場が広がっています。
本記事では、30~40代の日本人料理人の方々を主な対象に、カナダ全土で働く際に知っておきたいポイントを網羅的に解説します。求人市場の傾向から給与・待遇の相場、ビザ制度、現地での生活情報、文化的な注意点、そして実際にカナダで活躍する日本人料理人の事例や日本食市場の評価・今後の展望まで、公式ブログ記事として分かりやすく紹介します。
最新の2024~2025年の情報を中心にまとめましたので、海外でのキャリアを検討する際の参考にしてください。
1. 求人市場の傾向
日本食ブームと主要都市の動向
カナダでは和食の人気が年々高まっており、和食レストランの数も増加傾向にあります。
和食ブームは地理的に日本に近い西部(ブリティッシュコロンビア州)から始まり、東部(オンタリオ州など)へ広がりました。たとえばオンタリオ州トロントでは、居酒屋やラーメンのブームを経て、焼きそば・カレー・串焼きなどのカジュアルな和食が浸透する一方、高級和食レストランも次々オープンして多様化が進んでいます。
主要都市では特にトロントとバンクーバーが日本食レストランの集積地です。
実際、オンタリオ州(トロントを含む)には約947店、ブリティッシュコロンビア州(バンクーバーを含む)には約795店もの日本食レストランがあるとされており、この2都市圏だけで全カナダの和食店の約半数を占めます。
その他、モントリオール(ケベック州)やカルガリー(アルバータ州)など主要都市にも和食店が点在しており、カナダ全土で日本食への需要が存在しています。
和食レストランの総数は2023年時点で約2,600店に達し、2025年には2,800店に達するとの予測もあります。
このようにカナダ各地で日本食文化が根付き、寿司やラーメンはもはや一般的な食事として認知されるまでになりました。
需要の高い和食ジャンルとしては、圧倒的人気の「寿司」を筆頭に「ラーメン」ブームも定着しています。
実際、寿司はカナダ人にも大人気で、巻き寿司や握り寿司はもちろん、現地発祥のカリフォルニアロールなど独自の発展も見られます。また豚骨や味噌など各種スープのラーメン店も各地で繁盛しています。最近では照り焼きやカレーライス、たこ焼き、お好み焼きといった日本の大衆料理にもスポットが当たり、高級懐石からB級グルメまで幅広いスタイルの和食が支持を集めています。
さらに、2023年に発表されたミシュランガイドでは、トロントで星を獲得した17店中6店、バンクーバーでは9店中3店が日本食レストランという快挙も報じられました。
これはカナダにおける和食の評価が非常に高まっている証拠と言えるでしょう。
求められる人材とスキル
人材不足
カナダの外食産業は慢性的な人手不足であり、調理人の求人は全国に存在します。
特に和食分野では「日本人にぜひ働いてほしい」と考える雇用主も多く、日本で培った調理スキルは高く評価される傾向があります。寿司職人や和食シェフは海外では「日本人にしかできない職人技」として重宝されており、経験豊富な寿司職人などはカナダでも引く手あまたです。
実際、カナダの日本食レストラン経営者からは「経験値の高い寿司職人が不足している」との声もあり、豊富な実務経験を持つ人材は採用面接でも優遇されやすいようです。
求められるスキル
具体的に求人票で求められるスキルとしては、寿司職人であれば握りや巻物の技術、魚のさばき方といった寿司調理の専門技術がトップクラスに重要視されます。
またラーメンシェフであればスープの仕込みから麺茹でのタイミング管理まで、一連のラーメン調理工程の経験が重宝されます。居酒屋や総合和食店では煮物・焼き物・揚げ物など幅広い和食調理の経験があると強みになります。
さらに、英語でのコミュニケーション能力もある程度求められます。
キッチン内では日本人スタッフが多い職場もありますが、現地スタッフや他国籍スタッフと一緒に働く場合も多く、基本的な英語でのやり取りやメニュー・食材の英単語理解は必要です。接客を伴うポジション(寿司バーで直接お客様に提供する板前など)の場合はなおさら英語力が重要でしょう。
柔軟性と適応力も大切です。
カナダのレストランでは日本とは違い、業務分担が細かく分かれている場合があります。日本の飲食店では一人で接客から片付けまでするのが普通ですが、カナダでは「ホスト(案内役)」「サーバー(注文取り)」「フードランナー(料理提供)」「バッサー(後片付け)」と役割が細分化されています。
キッチンでもポジションごとに役割が明確で、ラインクック(調理担当)、プレップ(下ごしらえ専門)、皿洗い担当などに分かれます。
そのため、自分の持ち場の仕事に専念しつつ他スタッフと連携できる協調性が求められます。反対に、小規模な日本人経営店では日本式に近くマルチタスクを求められることもあり得ますので、状況に応じた柔軟な対応力があると望ましいでしょう。
まとめると、和食人気を背景に求人は豊富であり、経験豊かな日本人料理人には大きなチャンスがあります。
都市部を中心に様々な業態の和食店があり、自身の専門分野(寿司・ラーメン・天ぷら・居酒屋料理など)を活かせる職場が見つかる可能性が高いです。
「日本でしか経験がないけど大丈夫だろうか?」という不安はあまり必要なく、むしろ日本での経験そのものが強みになる場面が多いでしょう。
参考:
・日本貿易振興機構:カナダにおける日本食・日本産酒類の可能性を探る
・EARTHIANS JOURNAL:カナダでは日本食は手に入る?バンクーバーのリアルな日本食事情【留学前必見】
・note:世界の日本食材市場と日本食レストランの店舗数推移(2021-2023):カナダ編
・life vancouver:日本食レストランはカナダ永住権につなげやすいのか?プロに聞く具体的な仕事選び
・visajpcanada:42歳で海外移住を考えた寿司職人がカナダで仕事を得るまで
・Canarie:ジャパニーズレストランとカナディアンレストランで働いて感じた5つのこと
2. 給与・待遇の相場
カナダの料理人の給与水準
カナダで料理人として働く場合、給与形態は雇用先によって時給制・月給制がありますが、一般的な和食レストランでは時給制で募集されていることが多いです(マネージャーや料理長クラスは月給固定の場合もあります)。地域や経験によって差はありますが、時給の相場はおおよそ以下の通りです。
エントリーレベル・調理補助
最低賃金~時給約17~18カナダドル程度+チップ。
州により最低賃金は異なりますが、2025年時点でブリティッシュコロンビア州やオンタリオ州では$16~$17前後が最低ラインです。未経験や見習いの場合はこの水準からスタートすることが多いですが、チップが加算される職場では実質的な収入はもう少し上乗せになります(後述)。
経験者・寿司シェフ
時給$20~$25程度+チップが一般的です。
例えばバンクーバーのラーメン店の求人では時給$25~$30を提示する例もあります。寿司シェフや料理長クラスでは月給制で募集されるケースも多く、その場合月額$4,000~$6,000(約40万~60万円)程度が一つの目安です。高級店のヘッドシェフともなるとそれ以上(年収ベースで$80,000~$100,000以上)を提示されることもありますが、求人全体で見れば稀でしょう。
平均的な日本食シェフの年収は約$35,000~$50,000(350万~500万円前後)に収まる求人が多い印象です。ただしチップ収入を含めると実際の手取りはこのベース給与より増える場合がほとんどです。
チップ制度
カナダの外食産業ではチップ(チップグラチュイティ)の習慣が根付いており、従業員の収入に大きく関わります。
レストランではお客様は通常、会計額の15~20%程度をチップとして支払いますが、そのチップはサーバーだけでなくキッチンスタッフにも配分されることが多いです(配分割合は店によりけりです)。
一般的なレストランでは売上の数%がキッチンスタッフ全員で山分けされる仕組みが多く、繁忙店であれば月に数百~数千ドル単位のチップ収入が見込めます。たとえばトロントの高級寿司店の求人では「基本給CAD5,000~8,000+チップ(上限CAD10,000まで)」という提示もあり、チップだけで月$1万近く得られるケースもあるようです。
もっとも、チップ額は勤務先の業態やポジションによって差が大きく、高級店ほどチップも高額になる傾向があります。
逆にフードコート内の店舗や持ち帰り主体の店ではチップ収入は僅少でしょう。
いずれにせよチップ込みで考えると、カナダの料理人の実質手取りは基本給+15~20%増しになることも多く、これが収入面での魅力の一つとなっています。
福利厚生と税金のポイント
勤務時間と休暇
カナダの正社員待遇では週休2日が一般的で、有給休暇(年2週間程度からスタートが法定基準)も与えられます。
求人情報でも「週休2日、年次有給休暇○日」と明記されることが多いです。また法定休日(祝日)に勤務した場合は休日出勤手当(通常時給の1.5倍など)が適用される州もあり、労働法に則った待遇が整えられています。
長期勤務者には有給休暇日数の増加や病気休暇(有給の病欠日)の付与、福利厚生パッケージ(後述)が用意されることもあります。
福利厚生
大手企業経営のレストランやチェーン店の場合、医療保険や歯科保険などのグループ保険への加入、従業員割引(食事補助)、制服貸与、研修制度などが整っています。
一方、小規模な個人経営店では福利厚生は食事付き(まかない)程度に留まる場合もあります。
ただしカナダは基本的に医療費が公的保険でカバーされる国です。
就労ビザで一定期間滞在すると各州の公的医療保険に加入でき、病院や診療所での治療費は原則無料になります(※処方薬や歯科・眼科は公的保険対象外のため、雇用主提供の保険や自費対応となります)。そのため、日本のように企業が健康保険組合や厚生年金に加入させる制度とは異なり、個々の福利厚生よりも基本給にチップを加えた収入でカバーする考え方が多いとも言えます。
所得税と手取り
カナダでは給与から所得税や年金拠出(CPP)、雇用保険(EI)などが天引きされます。
税率は収入額によりますが、月給5,000ドル程度の場合で約20~25%前後が控除されるイメージです。実際、月額給与5,000ドル(約50万円)の料理長クラスのモデルケースでは、税金控除後の手取りは約3,360ドル(約34万円)になる試算があります。これは日本円換算で手取り約34万円と、日本国内の同等ポジションと比べても遜色ない水準です。
なお、カナダでは州税も課されるため居住する州によって手取り額が若干変わります(アルバータ州やブリティッシュコロンビア州など州税の低い地域では手取りがやや増える傾向)。また、非居住者扱いの最初の半年間は税率が高くなる場合もあるため、赴任当初は控除額が大きく感じられるかもしれません。この点は現地の会計士や先輩からアドバイスを受けつつ計画を立てると良いでしょう。
総合すると、カナダの料理人の収入は「基本給+チップ」が柱であり、生活に必要な手取りは十分確保できる水準と言えます。
さらに、チップ文化や福利厚生(医療制度)のおかげで実質的な待遇は数値以上に手厚い面もあります。もちろん物価も考慮に入れる必要がありますが、同じ飲食業で働くなら北米の中でも比較的安定した収入が期待できる国であると言えるでしょう。
参考:
・人材CANADA:仕事を探す
・WASHOKU AGENT:料理人向け: 海外の給与相場から見る!税金・生活費からの手取り額エリア別比較!
カナダトロント: 新規立上げ高級鮨おまかせ店料理長募集!(求人番号CA240801)
3. ビザ制度

料理人が取得可能な就労ビザの種類
カナダで合法的に働くには就労ビザ(ワークパーミット)が必要です。
日本人料理人が取得し得る代表的な就労ビザには以下のような種類があります。
ワーキングホリデー(Working Holiday)ビザ
30歳以下の若年層であれば、最も取得しやすい就労ビザがワーキングホリデーです。
日本国籍の場合、18~30歳まで申請可能で、最長12ヶ月間カナダで働けるオープンワークパーミットが発給されます。このビザは雇用主を問わず就労できる自由度の高いビザですが、年齢制限があり31歳以上は利用できません。
また定員枠が毎年設定されているため、応募後に抽選で招待状を受け取る必要があります。対象年齢に該当し、カナダでまず経験を積んでみたいという料理人には有力な選択肢です。(※なお、2024年時点で日本とカナダ間では年齢上限引き上げの議論もありますが、日本国籍ではまだ適用されていません。)
雇用主限定の就労ビザ(LMIAベースのワークパーミット)
30代以上や長期的に働きたい場合は、カナダのレストランからジョブオファー(内定)を得て、労働許可付きビザを取得するのが一般的です。
多くの場合、雇用主がカナダ政府に対して外国人を雇う許可を申請する「LMIA(労働市場影響評価)」というプロセスを経て、その承認をもとに本人が就労ビザを申請します。
このビザは特定の雇用主・職種・勤務地に限って働ける許可で、有効期限は通常1~2年です(更新も可能です)。例えば寿司シェフとしてバンクーバーのある寿司店に採用された場合、その店で寿司シェフとしてのみ働けるビザが発給されるイメージです。
LMIAを伴う就労ビザには、基本的に雇用主からの正式なジョブオファーが必要です。
また移民局の定める基準(給与水準や勤務条件)が満たされていること、申請者がその職種に適した技能・経歴を持っていることも条件となります。料理人の場合、調理師専門学校の卒業または2年以上の調理職歴があればビザ申請に有利とされています。
実際「調理師の専門学校を出ている」「キッチンで2~3年の職歴がある」どちらかを満たせば、就労ビザ取得や永住権申請につながるチャンスが高いと移民コンサルタントも述べています。
通常、雇用主がLMIA申請を行い(数週間~数ヶ月を要します)、承認がおりると日本の申請者はその書類を用いて在日カナダ大使館等で就労ビザを申請します。
無事ビザが発給されればカナダ入国時にワークパーミットが発行され、その後は記載の条件で就労が可能です。近年、カナダ政府は一部都市圏で失業率が高い場合にLMIA申請を制限する措置も取っており、2024年秋以降は条件がやや厳しくなっています。
しかし調理師・シェフ職は移民政策上も重視されている分野で、レストラン側がLMIA取得に前向きなケースも少なくありません。
求人情報にも「ビザサポートあり」「将来的にサポート検討」などと記載されている場合があり、そのような雇用主を探すことがポイントになります。
永住権(Permanent Residence)取得による就労
就労ビザではありませんが、中長期的にカナダに定住する意思がある場合は永住権(移民ビザ)の取得も視野に入ります。
調理師・シェフの職種はカナダの移民プログラムでも比較的優遇されており、実務経験や一定の英語力があれば州の指名プログラム(PNP)や連邦技能労働(Federal Skilled Trades)カテゴリーで永住権を目指すことが可能です。
特にカナダで1年間以上の就労実績を積むと、永住権申請時に加点され有利になります。
実際、「日本食レストランで働くと永住権につながりやすいか?」という問いに対し専門家は「和食に限らず、カナダで職歴を作ることが永住権への近道」と回答しています。カナダは移民受け入れを積極的に行っている国ですので、一定期間真面目に働き続ければ将来的に家族も含め永住権を取得できる可能性があります。
ビザ申請時の注意点と家族帯同について
家族帯同
カナダの就労ビザでは、配偶者や子供を帯同させることも可能です。
配偶者(夫または妻)は通常、主申請者が中級技能職(NOCのTEER 0~3に相当)以上であればオープンワークパーミット(配偶者就労ビザ)を取得でき、就労制限なく働くことが許可されます。ただし2025年から配偶者ビザの発給要件が変更され、申請者の職種や就労期間に一定の条件が設けられるようになりました。
具体的には、主たる就労者(料理人)の就労ビザの残存期間が一定以上あることや、申請時点で主たる就労者が高技能職についていること等が求められる可能性があります。料理人は技能職として扱われるため配偶者ビザ取得のチャンスは十分ありますが、最新の移民局ルールを確認し、必要に応じて専門家に相談することをお勧めします。
子供については、就学年齢(5~6歳以上)の子供は留学ビザ(学生ビザ)を取得することで現地の学校に通うことができます。
未就学児はビザなしで滞在できます。カナダの公立学校は基本的に永住者・就労ビザ保持者の子弟に対して無償で開放されており、帯同子女も現地校で教育を受けられます。医療も、就労ビザ保持者の扶養家族として州の医療保険に加入可能です。家族での渡航も比較的受け入れ態勢が整っているのがカナダの魅力と言えます。
ビザ申請のタイムライン
就労ビザ(LMIAベース)は申請から取得まで数ヶ月要することが一般的です。
内定確保~LMIA取得(2~3ヶ月)、ビザ申請~発給(1~2ヶ月)と見込んで計画しましょう。ワーキングホリデーの場合は抽選時期によりますが、年明けから募集が始まり、当選後にビザ発給手続きを経て渡航となります。
余裕をもった準備と、必要書類(履歴書、職務経歴証明、資格証明書、残高証明など)の早めの収集が大切です。
参考:
・VISAJPCANADA:ワーキングホリデービザ
・留学館情報:カナダワーホリ年齢は35歳まで?カナダワーホリを確実に実現する方法
・カナダ留学コンパス:カナダの就労ビザについて
・life vancouver:日本食レストランはカナダ永住権につなげやすいのか?プロに聞く具体的な仕事選び
・TORJA:【料理人など日本食の担い手の永住権問題を危惧】カナダにおける日本食文化・ 日本食レストランの未来はあるのか?QLSeeker Canada Inc. 移民コンサルタント 上原敏靖氏に聞く|ニュースの別視点【第三弾】
・カナダ専門.com:【2024年】カナダの永住権に繋がりやすい職種は?
・人材CANADA:仕事を探す
4. 生活情報(物価・家賃・日本食材・交通・医療・治安)
カナダで生活するにあたり、日本との違いを把握しておくと安心です。
ここでは生活費や物価、住宅事情、食材の入手、交通手段、医療制度、治安などについて全体的な傾向を解説します。
物価・生活コスト
物価水準
カナダの物価は都市部では日本(東京)と同程度かやや高い印象です。
特に外食費用が高く、レストランでの食事はチップ込みで日本の1.5倍以上の支出になることも珍しくありません。一方、スーパーで売られている食材の価格は品目によります。肉類や乳製品は日本より割高ですが、野菜や果物は季節によっては安く手に入るものもあります。
総じて自炊を中心にすれば食費は抑えられます。
あるシミュレーションでは、単身者が毎食自炊した場合の月々の食費は約35,000円(約350カナダドル)、毎食外食すると約105,000円(約1,050カナダドル)になるとの試算があります。自炊と外食を織り交ぜればその中間に収まるでしょう。
家賃相場
都市によって異なりますが、バンクーバーやトロントなど大都市では家賃は高めです。
単身者向けワンルーム・1K程度の月額家賃相場は約15万~16万円(約C$1,500~1,600)、家族向け2ベッドルームで23万~24万円(約C$2,300~2,400)が目安です。郊外や地方都市に行けばもう少し安くなり、単身向けで月10万円台前半の物件もあります。カナダの賃貸は基本的に家具無し・光熱費別が多いですが、水道代は家賃込みのケースも多いです。
契約時には通常、半月~1ヶ月分のデポジット(保証金)と初月家賃を前払いします。
日本のような礼金はありません。また物件によっては入居条件に収入証明や推薦状が必要な場合もあります。最近はシェアハウスやホームステイ形式で安価に住める選択肢もあるので、現地の日本人コミュニティや掲示板を利用して情報収集すると良いでしょう。
日常生活費
家賃以外の生活費としては、電気・暖房などの光熱費(月$50~$100程度)、通信費(スマホ+インターネットで月$80~$150程度)、交通費(公共交通定期券が都市部で月$100前後)などがかかります。
都市部では物価水準が高めなため、生活費も高くなる傾向があります。例えばバンクーバーやトロントは物価指数が高く、東京より出費がかさむと感じる場面もあるかもしれません。
ただしチップを除いた税込み表示価格は日本と大きく変わらない品も多く、節約次第でコストコントロールは可能です。東南アジアのように物価が極端に安い国ではありませんが、その分給与水準も高いので、手取り収入と支出のバランスを見れば十分生活していけるだけの収入は得られるでしょう。
住居と交通事情
住環境
カナダの住宅は日本と比べて部屋が広く造られていることが多く、アパートメント(日本でいうマンション)でもリビング・ダイニングがゆったりしています。
ただし防音は日本ほど完璧ではない場合もあり、木造建築の物件では上下左右の生活音が聞こえるケースもあります。賃貸物件は基本的にキッチン・バスルーム付きで、冷蔵庫や電子レンジなどの大型家電は備え付けのことが多いです。ランドリー(洗濯機)は共同のコインランドリー形式か、ユニット内に洗濯乾燥機がある場合とがあります。冬の寒さが厳しい地域ではセントラルヒーティングが完備されており、室内は暖かく保たれます。
交通手段
都市部では公共交通機関が発達しています。
トロントなら地下鉄・バス・路面電車、バンクーバーならスカイトレイン・バスが主要な移動手段です。定期券や回数券を利用すれば割安になり、通勤時間帯でもおおむね定時運行しています。ただ日本のように電車の本数が頻繁ではなく、バスも路線によっては30分に1本など間隔が空くこともあります。公共交通で通勤可能かどうかは物件選びにも影響するでしょう。
郊外や小さな町では自家用車がないと不便な場合もあります。
車は中古で$5,000~$10,000程度から購入可能で、ガソリン代も2025年現在リッターあたり$1.5(約130円)前後と日本と大差ありません。
ただし保険料が若年層だと高額になる点に注意が必要です。免許は国際免許証で入国後すぐ運転できますが、現地の州発行免許への切替を早めに行いましょう。
治安と地域差
カナダは全体的に治安の良い国です。
銃規制も厳しく、日中はどの地域でも安心して出歩けます。夜間も、繁華街や人通りの多いエリアであればさほど心配はありません。ただし各都市に治安の悪いエリアが存在するのも事実です。例えばバンクーバーの一部(ダウンタウン・イーストサイド)は薬物中毒者やホームレスが多く、不安を感じる雰囲気があります。トロントでも深夜の繁華街では酔っぱらいや不審者に注意が必要です。
強盗や暴行事件の発生率は日本より高めですが、多くはギャング同士の抗争やドラッグ絡みであり、一般市民が巻き込まれる確率は低いです。スリや車上荒らしなど軽犯罪は都市部で発生しますので、戸締りや貴重品管理は怠らないようにしましょう。
日本食材の入手事情
日本食材・製品の購入
カナダで日本の食材や調味料はどの程度手に入るのか、不安に思う方も多いでしょう。
しかし結論から言えば、よほどの田舎町でない限り日本食材の入手は容易です。大都市には日本人経営のスーパーやアジア系の大型スーパーマーケットがあり、醤油・みそ・みりん・豆腐・カレールー・米など主要な食材はほぼ揃います。例えばバンクーバーには日系スーパーのFUJIYA(フジヤ)が老舗として有名で、日本の食料品なら一通り揃う品揃えです。
また、中国系のT&Tスーパーマーケットや韓国系のH-Martはカナダ全土にチェーン展開しており、日本の調味料やカップ麺、お菓子なども扱っています。
これらアジア系スーパーは「アジアの食材なら何でも揃う大型店」で、寿司用の海苔や刺身用の魚、冷凍の枝豆や餃子まで購入できます。
都市部では他にも韓国・中国・東南アジアの各系統の食品店があり、日本食材専門でなくともアジア食品店で代用品が見つかる場合も多いです。
価格と品質
日本からの輸入品は割高ですが、現地で生産・流通しているアジア食材も増えています。
例えば醤油はキッコーマンの北米現地生産品が廉価で手に入りますし、お米もカリフォルニア産の日本米(カルローズなど)が安価で買えます。刺身用の魚はさすがに種類が限られますが、サーモンやマグロは比較的安く新鮮なものが手に入ります。日本の高級和牛などは希少ですが、代わりにカナダ産の高品質ビーフがあります。味噌や豆腐、納豆は日系・韓国系メーカーが北米で製造しており風味も良好です。
総じて、「絶対にこれがないと困る」という日本の食材はほとんど無いと言っていいでしょう。
現地で工夫しながら手に入るもので対応できますし、日本人コミュニティのネットワークで取り寄せ情報を共有することもできます。
日本食レストラン
また、「自炊よりお店で日本食を食べたい」場合も、主要都市にはラーメン屋、居酒屋、寿司屋、カレー屋など多数の選択肢があります。
バンクーバーやトロントでは、日本人経営ではない「なんちゃって日本食」ではなく、本格的な味を提供する店も増えています。寿司やラーメンはもちろん、最近では牛丼チェーンやタピオカミルクティー店なども進出しており、日本の味が恋しくて困るという心配はかなり軽減されています。
もちろん地方に行けば日本食レストラン自体少なくなるので、自炊スキルは大事ですが、それでもアジア系スーパーがある町なら基本的な日本食の再現は可能です。
医療制度と緊急時対応
医療制度
カナダは公的医療保険制度(メディケア)が充実しており、永住者や一定の就労ビザ保持者は各州の医療保険に加入できます。
加入後は病院での診察・治療費が原則無料になります(保険証を提示)。例えばブリティッシュコロンビア州ではMSP(Medical Services Plan)という保険に登録し、オンタリオ州ではOHIP(Ontario Health Insurance Plan)に登録します。就労ビザの場合、ビザ期間が6ヶ月以上であれば加入資格がある州が多いですが、加入まで入国後3ヶ月の待機期間を要する州もあります。渡航直後は民間の旅行保険や会社の提供する保険でカバーし、その後州の保険に切り替える形になります。
医療費無料とはいえ、処方箋薬代や歯科治療費、眼鏡代などは含まれないので、それらは自己負担です(勤務先が民間保険を用意していれば一部補助されます)。
いざという時は救急車も呼べますが、救急車は有料(数百ドル程度請求)なので、本当に必要な場合のみ利用する形です。
言語と医療
医療機関では基本英語(ケベック州ではフランス語)での対応になります。
大都市には日本語で対応できるクリニックも僅かにありますが、基本は英語力が求められます。とはいえ診療の場では専門用語も多いので、必要に応じて現地の日本人通訳サービスや知人の助けを借りるのも一つの方法です。処方薬はドラッグストアで受け取りますが、薬局スタッフも親切に説明してくれます。
治安・緊急時
先述の通り治安は概ね良好ですが、緊急時の番号は日本と異なり「911」です。
この番号で警察・消防・救急いずれにも繋がります。電話対応は英語ですが、「Japanese, please(日本語対応お願いします)」と言えば日本語通訳を介した対応に切り替わる場合もあります。万一、事件や事故に巻き込まれた場合も落ち着いて対処しましょう。カナダの警察は市民に友好的で、困っている人には親身に対応してくれます。
日常生活で防犯上気をつけることは、日本同様に「深夜に人気のない場所を歩かない」「貴重品から目を離さない」など基本的なことです。総合的に見て、カナダの生活環境は日本人にとって大きなストレスなく適応できるものと言えるでしょう。
参考:
・EARTHIANS JOURNAL:カナダでは日本食は手に入る?バンクーバーのリアルな日本食事情【留学前必見】
・WASHOKU AGENT:料理人向け: 海外の給与相場から見る!税金・生活費からの手取り額エリア別比較!
・ビザJPカナダ 永住権・ビザ情報チャンネル:カナダ永住権への道「飲食業界編」やっぱり一番チャンスあり?プロに聞く、具体的な仕事選び
5. 文化的な注意点(職場の習慣・言語・労働観の違い等)
海外で働く上では、その国の労働文化や職場習慣の違いを理解しておくことが重要です。
カナダの職場と日本の職場では、コミュニケーションの取り方や働き方の価値観に様々な違いがあります。ここでは特に知っておきたいポイントを紹介します。
職場の人間関係とコミュニケーション
フラットな組織
カナダの職場は上下関係が日本ほど厳しくなく、平等主義的です。
年功序列よりも能力や役割を重視する文化で、上司やオーナーに対してもファーストネームで呼び合ったり、意見を率直に言えたりする風通しの良さがあります。日本では先輩や上司への絶対的な服従や敬語の使用が求められますが、カナダでは基本的に誰もが対等な立場とみなされます。「言われたことに黙って従う」よりも、「自分の意見やアイデアを建設的に述べる」方が評価される環境です。
もちろん、シェフや店長など役職者の指示には従う必要はありますが、その際も意見があれば提案して構いませんし、納得できなければ質問することも許容されます。
人種の多様性も特徴で、カナダの厨房には様々なバックグラウンドの人が集まります。お互いの文化を尊重し、オープンにコミュニケーションを取ることが円滑な人間関係を築くコツです。
フレンドリーな職場
カナダ人スタッフはフレンドリーで、職場でのユーモアや挨拶を大切にします。
シフトの終わりには同僚同士ハグをして「お疲れ様、またね」と言い合うような温かい雰囲気の店もあります。一方で、仕事とプライベートの区別ははっきりしています。勤務後に同僚同士で飲みに行ったり遊んだりすることもありますが、日本のように毎晩のように同僚付き合いがあるわけではありません。
「職場は職場、プライベートは自分の時間」という意識が強く、勤務時間外に上司が部下を引き回すような慣習もありません。むしろ自分の時間を大切にする人が多いです。そのため、日本的な上下関係のストレスは少なく、適度な距離感で人間関係を築けるでしょう。
多文化への配慮
多国籍なスタッフがいる場合、お互いの文化や宗教への理解が必要です。
たとえば同僚にムスリム(イスラム教徒)がいればハラル食材に気を配ったり、ベジタリアンがいれば料理の説明に注意したりします。日本人特有の礼儀正しさや勤勉さは評価されますが、それに固執しすぎると他の人に距離を感じさせてしまうこともあります。リラックスした態度で、しかし相手へのリスペクトは忘れずに接するのが良いでしょう。
英語・フランス語力の必要性
言語の壁
英語はカナダで働く上で避けて通れない要素です。
職場内の会話、ミーティング、仕事の指示、すべて基本は英語で行われます(ケベック州ではフランス語がメインですが、英仏両語話せる人が多いです)。日本人経営の和食店の場合、厨房内は日本語が飛び交うこともありますが、ホールスタッフやお客様対応では英語が必要です。また同僚が日本人以外の場合も共通語は英語になります。
したがって、最低限の日常英会話と、食材や調理に関する英単語は押さえておきましょう。
「slice (切る)」「boil (茹でる)」「grill (焼く)」など基本的な調理動詞や、「salmon (サーモン)」「tuna (マグロ)」「buckwheat noodles (そば)」などメニューの食材名は把握しておくとスムーズです。
言語習得環境
英語力に不安がある方も、カナダの職場は語学習得の場として好適です。
英語ネイティブの同僚と働くことで生の表現やスラングも学べます。もし英語を本格的に伸ばしたい場合は、あえて日系ではなくローカルのレストランで働くという選択もあります(ただし採用ハードルは上がります)。
一方、語学力に自信がない初期段階では日本人経営店で仕事に慣れつつ徐々に英語に触れるのも一つの手です。
カナダは移民の国ゆえ、多少言葉が拙くても寛容に対応してもらえますし、聞き返せばゆっくり話してくれます。最初は戸惑うかもしれませんが、働きながら英語を習得するくらいの意気込みで飛び込んでみましょう。
フランス語について
ケベック州(モントリオールなど)では公用語がフランス語のため、フランス語能力が求められる職場もあります。
ただモントリオールの観光業や飲食業では英仏バイリンガル対応が一般的で、英語のみでも働ける店も少なくありません。英語+簡単なフランス語のメニュー用語を覚えておけば支障はないでしょう。その他の州ではフランス語は不要です。
逆に現地の第二言語として日本語が役立つ場面もあります。日系企業や旅行客相手の業態では日本語スキルが重宝され、思わぬところで役に立つこともあるでしょう。
労働観の違いと働き方
ワークライフバランス重視
カナダの労働文化で顕著なのは、ワークライフバランス(仕事と生活の調和)を重視する姿勢です。
労働者は各自のプライベートや家族の時間を大切にする権利があり、雇用側もそれを尊重します。そのため、長時間残業は好まれず、定められたシフトが終われば速やかに業務を引き継いで退勤するのが普通です。日本のようにサービス残業や休日出勤が常態化することはなく、残業が発生する場合はきちんと時間外手当が支払われます。
実際にカナダで働く日本人料理人からも「日本のように何かに追われている感じがなく、仕事が終わればのんびり過ごせる」という声が聞かれます。
休暇の取りやすさも日本より上で、有給休暇や病欠も遠慮なく申請できます。家族の用事や自分の趣味の時間など、プライベートを充実させることが結果的に良い仕事につながるとの考え方が浸透しています。
実力主義と評価
日本では年次や所属する組織への忠誠度が昇進・昇給に影響することがありますが、カナダでは成果や実力が評価の軸になります。
調理の世界でも同様で、「何年働いたか」よりも「どんなスキルを持っているか」「顧客に喜ばれる料理を作れるか」が重要です。結果を出せば年齢に関係なく責任あるポジションを任されたり、給与が上がったりします。逆に言えば、年長者でも怠慢であれば敬意は得られませんし、若手でも熱心で腕が良ければ周囲から信頼されます。
自己アピールも時には必要で、上司に対して自分のアイデアを提案したり、「もっと◯◯を学びたい」など積極的に意思表示すると評価につながるでしょう。遠慮が美徳とされる日本と違い、自己主張してこそ一人前と見なされる部分があります。
職業人としての誇り
カナダ人は自分の仕事にプライドを持って取り組む人が多いです。
料理人という職業も尊重されており、「Craft(クラフト=職人技)」として捉えられています。
日本人料理人である皆さんにとっても、自身の技術を発揮しつつ異文化の中で成長する良い機会となるでしょう。最初は勝手の違いに戸惑うこともあるかもしれませんが、「郷に入っては郷に従え」の精神で現地のやり方を吸収しつつ、日本的な良さも発信していけば、きっと職場になくてはならない存在として活躍できるはずです。
参考:
・neighbourcanada:日本とカナダ 労働環境の違い5選
・note:海外で働く-料理人- 8 カナダ
・Canarie:ジャパニーズレストランとカナディアンレストランで働いて感じた5つのこと
・VISAJPCANADA:42歳で海外移住を考えた寿司職人がカナダで仕事を得るまで
6. カナダで活躍する日本人料理人の事例
実際にカナダで働き、成功を収めている日本人料理人の方々の事例をいくつかご紹介します。
先輩たちの経験談は、これから挑戦する皆さんにとって貴重なヒントと励みになるでしょう。
ケーススタディ①:42歳寿司職人・新天地への挑戦
日本で20年近く寿司職人として勤めていた二子石さん(仮名、42歳)は、40代に差し掛かり「この先のキャリアに限界を感じた」ことから海外への挑戦を決意しました。
彼が注目したのがカナダへの移住です。きっかけは、とあるブログで「海外では日本人の寿司職人が不足していて大人気」という記事を目にしたことでした。奥様との話し合いを重ねた末、「人生一度きり、思い切ってチャレンジしよう」とカナダ行きを決断しました。
二子石さんはまず日本国内でカナダの求人情報を探し、「人材カナダ」というカナダ就職支援サイトに登録します。
すると数日後、早速バンクーバーの寿司レストランのオーナーからオンライン面接のオファーが届きました。面接は和やかな雰囲気で進み、長年培った寿司の経験について熱意を持って語ったところ、その場で高く評価されました。「話がスムーズに進みすぎて裏があるのでは…」と心配になるほどトントン拍子でしたが、それだけ先方も経験豊富な寿司職人を切実に求めていたのでしょう。数回のやり取りの後、無事内定と就労ビザサポートを獲得し、晴れてカナダ行きが決まりました。
渡航後、二子石さんはバンクーバーの寿司店でシニアシェフとして迎えられました。
英語にはまだ苦労するものの、職場の人々は親切で、働きながら徐々に習得しています。日本で培った確かな技術のおかげで現地スタッフからも頼られる存在となり、本人も「カナダの生活がとても気に入っている」と語っています。仕事中は真剣に寿司と向き合い、仕事が終われば奥様と一緒に郊外へドライブに出かけたりと、充実した日々を送っています。現在は一時的な就労ビザで働いていますが、担当してくれた移民コンサルタントの助けを借りて永住権取得に向け前向きに動き始めたところです。
二子石さんのケースは、日本で長年積んだキャリアを武器に40代からでも海外で活躍できる好例です。
「少し視野を広げるだけで、自分の将来がこんなにも拓けるとは思わなかった」と彼は振り返ります。海外で働く不安はあって当然ですが、需要のある分野で本気で挑めば道は開けることを彼の体験が示しています。
ケーススタディ②:現地で高評価を得た和食シェフ
バンクーバーにある和食ダイニングでスーシェフとして働くAさん(30代前半)は、ワーキングホリデーで渡加後その才能を開花させた料理人です。
Aさんは日本では割烹料理店で修行していましたが、「海外で自分の料理がどこまで通用するか試したい」という思いから渡航。現地の日系レストランに就職し、持ち前の創造性で次々と新メニューを提案しました。
その結果、お店は地元誌で「革新的な和食」として紹介され、Aさん自身も料理長に抜擢。
ミシュランガイド・バンクーバー2022では彼の店がビブグルマンに選出されるという快挙を成し遂げました(ミシュランガイドは2022年からバンクーバー版が開始)。Aさんは現在、永住権も取得しカナダに根を下ろして活躍しています。「カナダのお客さんは新しい和食のアイデアにも寛容で、本当にやりがいがある」と語り、今後は自分の店を持つ夢も描いています。
ケーススタディ③:和食レストランの経営者として成功
料理人から一歩進んでオーナーシェフとして成功した例もあります。
モントリオール出身の日本食レストラン「桶屋久次郎」の松田卓也氏は日本人寿司シェフで、カナダ各地に店舗を展開しています。彼はまずモントリオールに完全予約制の寿司・和食店を開店し、その後2022年にバンクーバー、2024年にはトロントにも進出しました。桶屋久次郎バンクーバー店はミシュラン一つ星を獲得し、和食の本格的な味とおもてなしで高い評価を受けています。
松田氏は「カナダは世界展開の一拠点にすぎない」とグローバルな視野を持ちつつも、各店舗で日本文化の発信にも力を入れています。現地のフランス料理シェフやソムリエ向けに日本酒イベントを開催するなど、和食と日本酒の素晴らしさをカナダに広める活動も行っています。
このように、単に雇われるだけでなく経営者・プロデューサーとしてカナダ市場で成功する日本人も現れています。
以上のような事例からわかるように、カナダには日本人料理人が活躍できる土壌があります。
経験豊富なベテランから若手のチャレンジ、そして経営の視点まで、多様な形で夢を実現している人たちがいます。SNS上でも「#カナダ生活」「#日本食レストラン」などのハッシュタグで現地の様子を発信している料理人が多数いますので、ぜひ検索してみてください。先輩たちの姿はきっと皆さんの背中を押してくれることでしょう。
参考:
・VISAJPCANADA:42歳で海外移住を考えた寿司職人がカナダで仕事を得るまで
・日本貿易振興機構:カナダにおける日本食・日本産酒類の可能性を探る
7. カナダの日本食市場の評価と今後の展望
現地で高まる和食の評価
前述の通り、カナダにおける日本食の評価はこの数年で飛躍的に高まっています。
ミシュランガイドの星付き店舗に和食店が多数選ばれたことはその象徴であり、「日本食=高品質で美味しい」というイメージが定着しています。カナダ人は健康志向が強い層も多く、寿司や蕎麦、豆腐料理など日本食のヘルシーさが支持されている側面もあります。
また寿司ブーム・ラーメンブームを経て、現在ではカレーやたこ焼きに至るまで日本の大衆食も人気が出ており、日本食は一過性の流行ではなく文化として根付いたと言えるでしょう。
レストラン業界において、日本食はフレンチやイタリアンと並ぶ一ジャンルとして確固たる地位を築いています。
実際、トロントやバンクーバーの飲食店街を歩けば寿司店やラーメン店がそこかしこに見られ、地元の人々の日常の食事選択肢に入っています。評価サイトでも和食店が高得点を獲得する例が多く、「Best Restaurantsランキング」に日本食が必ずランクインするほどの存在感を放っています。例えばトロントの人気寿司店「鮨○○」は予約困難な店として知られ、地元の食通たちから絶賛されています。カナダ人から「Sushi is my comfort food(寿司は自分にとっての癒しの食べ物)」と言われるくらい、日本食はカナダの食文化に溶け込んでいるのです。
また、日本食レストランだけでなく他業態への広がりも見られます。
和食の調味料や日本酒がフレンチやニューアメリカンのレストランで使われるケースも増えており、「隠し味に味噌を使ったソース」や「日本酒ペアリングを提供する洋食店」などジャンルの垣根を超えた評価が進んでいます。つまり、日本食そのものの評価のみならず、日本の食材・酒類がカナダの食文化全体に影響を及ぼしている状況です。
和食市場の今後の展望
今後のカナダにおける日本食マーケットは、明るい展望が開けています。
市場調査によれば、日本食レストランの店舗数は2025年に2,800店に達する見込みで、2021年から2025年にかけて年平均約5%の成長を遂げる計算になります。背景には、カナダ社会の多文化化と健康志向、そして何より和食のブランド力向上があります。2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことも追い風となり、世界的な和食ブームが続いていますが、カナダも例外ではありません。
需要面では、寿司・ラーメンといった定番人気は今後も安定して支持されるでしょう。
さらに新たな和食スタイルの伸びしろも期待されます。例えば近年注目されているのが居酒屋スタイルとイザカヤフュージョンです。小皿料理をシェアしながらお酒を楽しむ日本式居酒屋文化は、社交好きなカナダ人に受け入れられつつあります。また和食と他国料理の融合も盛んで、和風タコスや寿司ブリトー、ラーメンバーガーなど創作メニューを出す店も登場しています。こうしたイノベーティブな試みが評価されれば、日本食の裾野はさらに広がるでしょう。
供給面では、日本から優れた食材や酒類が続々とカナダに紹介されています。
最近の動きとして、オンタリオ州ではコンビニや食料品店での酒類販売が解禁され、日本酒も販売できるようになる見通しです。これは約100年ぶりの方針転換で、日本酒メーカーにとっても大きなチャンスです。日本政府や関連団体もカナダでの日本食・日本酒のプロモーションに力を入れており、現地の消費者への浸透は一層進むでしょう。
さらに、和食人材の確保という点でも追い風があります。
カナダ国内で和食ブームが長期化すれば、人材需要も高止まりし、日本からの料理人の活躍機会は増え続けると考えられます。カナダ政府の移民政策は状況に応じた変化はあるものの、基本的には必要な技能を持つ外国人には門戸を開く姿勢です。飲食業界の人手不足は構造的な問題であり、日本人料理人への期待は今後も大きいでしょう。
総合すると、カナダの日本食市場の未来は非常に明るいと言えます。
実際、「日本食・日本酒の未来は明るい!!」との声も上がっています。これは楽観的な表現ではありますが、それだけ期待値が高いということです。カナダという地で和食は評価され、必要とされ、そしてこれからも発展していくでしょう。その中で、日本人料理人の皆さんが主役として活躍し、和食文化をさらに高みへ導いていくことを期待しています。
おわりに
カナダで働く日本人料理人向けに、求人市場、給与、ビザ、生活情報、文化の違い、成功事例、市場展望と幅広く情報を紹介してきました。
要点をまとめると、カナダには和食需要が豊富にあり、日本人料理人のスキルは高く評価されます。適切なビザを取得し現地に飛び込めば、安定した収入と充実した生活を得られる可能性が高いでしょう。文化や言語の違いはありますが、それらはむしろ自身を成長させるチャンスでもあります。すでに活躍している先輩方も多く存在し、その背中が心強い指針となってくれるはずです。
ぜひ本記事の情報を参考に、カナダでの新たな挑戦に踏み出してみてください。
未知の地には大きな可能性が広がっています。あなたの和食の技と情熱で、カナダの人々を笑顔にする日を応援しています。
参考:
・日本貿易振興機構:カナダにおける日本食・日本産酒類の可能性を探る
・note:世界の日本食材市場と日本食レストランの店舗数推移(2021-2023):カナダ編