オランダで働く日本人料理人ガイド:求人市場から生活情報まで徹底解説
1. オランダの和食求人市場の現状と傾向
近年、オランダにおける和食の人気は著しく高まっています。
実際、オランダ国内の日本食レストラン数は約1,180店にも上り、この数は過去10年で大幅に増加しました。特にアムステルダムは和食店の激戦区で、高級寿司店からラーメン専門店、居酒屋スタイルの店まで多彩です。
ロッテルダムやデン・ハーグ(ハーグ)など他の主要都市にも和食レストランが増えており、地方都市にも進出が見られます(例:フローニンゲンの「Hanasato」は同州唯一の本格和食店)。
人気ジャンル
依然として寿司や刺身などの日本料理の王道が主流です。
オランダでは寿司や鉄板焼きの食べ放題スタイルのレストランが家族連れに長く親しまれてきた歴史があり、現在でも寿司・焼鳥・天ぷらなどは幅広い世代に受け入れられています。
一方で、近年はラーメンブームも到来しており、日本のラーメンやつけ麺を提供する専門店が主要都市で増加中です。
実際、オランダは韓国製インスタントラーメンの輸入額が世界第4位となるほどラーメン人気が高まっており、日本の麺料理への関心も追い風となっています。また、居酒屋スタイルの小皿料理やお好み焼き、ヴィーガン和食など新しいスタイルも徐々に注目を集めています。
求められるスキル
まず寿司職人や和食シェフとしての実務経験が重視されます。
高級店では日本での調理経験2年以上や調理師専門学校卒業などが応募条件になることもあります。特にミシュラン星獲得店や五つ星ホテル内レストランでは、懐石や寿司の高度な技術と衛生管理・原価管理スキル、後進指導の経験などが求められる傾向です。
一方、現地の一般的な和食レストランでは英語での接客対応や、多国籍スタッフとのチームワークができるコミュニケーション力も重要になります。
総じて、日本で培った本格的な和食の調理技術が評価されると同時に、現地スタッフや顧客と円滑にやりとりできる柔軟性がポイントと言えるでしょう。
参考:
・WORLD POST:「ホテルオークラアムステルダム 和食シェフ求人詳細」(2025年4月情報)
・ANN asianews.network:How Netherlands has become a top K-food destination
・Kikkoman:SPECIAL REPORT Vol.26 No.4 from Amsterdam
・reddit:Any cool restaurants in the city?
・農林水産省:海外における日本食レストランの国・地域別概数
2. 給与と待遇の相場
給与水準
職種や経験年数によって幅がありますが、一般的な和食料理人の場合、月収約€2,500~€3,500(ユーロ、税込み)が一つの目安です。
日本円に換算すると年収約400万~600万円程度(1ユーロ=145円前後換算)となり、日本国内の同等の職位と比べても遜色ない水準です。ミシュラン星付き店の寿司シェフなど上級ポジションでは、このレンジの上限を超えるオファーもあり得ます。
例えばアムステルダムの高級和食店では年収404万~622万円(2021年レート)という求人例も報告されています。
待遇面
多くの雇用主が現地の労働法に則った手厚い福利厚生を提供します。
具体的には賞与(ボーナス)の支給や年1回の昇給制度、社会保険の完備などが含まれます。オランダでは正社員で働く場合、健康保険や年金などの社会保険への加入は基本的に義務となっており、雇用先が手続きを代行してくれるケースが一般的です。
また企業によっては、渡航費や引越費用の補助、社員食堂の利用、語学研修サポート、社宅や住宅手当の提供など独自の福利厚生を用意している場合もあります。
休日休暇についても法律で最低20日以上の有給休暇が保証されており、実際には年間25日前後の有給休暇を与える企業が多いです。加えて週休2日制が基本で、ワークライフバランスを重視するオランダの慣行に従い残業は過度にならない傾向があります。
チップ(サービス料)
オランダでは日本と同様に必須ではありません。
お客様が任意で支払うチップはありますが、一般的には会計の端数を繰り上げる程度か、良いサービスを提供した場合に5~10%程度を渡すケースが多いだけで、アメリカのように給与を補填するほどの額にはなりません。
そのため、日本人料理人として働く場合でも、基本給+賞与で生活できる収入が確保されると考えてよいでしょう。
参考:
・WORLD POST:「ホテルオークラアムステルダム 和食シェフ求人詳細」(2025年4月情報)
・海外飲食求人.com:ヨーロッパで輝くチャンス:オランダのミシュラン一ツ星和食レストランが寿司職人を募集中!#462
・dutchreview:Tipping in Amsterdam: all you need to know [UPDATED 2025]
3. 就労ビザ制度と取得の流れ
オランダで料理人として就労するためのビザには、他業種と比べて比較的取得しやすい特例制度があります。
2014年以降、オランダ政府は深刻なアジア料理人材の不足に対応するため、アジア系調理師向けの就労ビザ枠を設けています。この特別枠を利用することで、日本人料理人は雇用主からのスポンサーを受けて就労ビザ(居住許可付)を取得しやすくなっています。
具体的には、アジア料理業界向け特別労働許可制度と呼ばれるもので、通常必要とされる「オランダやEU内で適任者をまず探す」という手続き(いわゆる労働市場テスト)が免除されます。
その代わりに雇用主側には、事前にオランダ労働局(UWV)への求人届出を行うことなどいくつかの条件が課されています。
ビザの種類と条件
就労ビザ自体は労働・居住許可が一体となったGVVA(居住証明付労働許可)という形で発給され、有効期限は最長2年間です(その後更新申請が可能)。
対象となる職種はアジア料理店のコック(料理人)に限定されており、中華・インド・日本・タイなどアジア各国料理を提供するレストランで働く場合に適用されます。ポジションも調理補助ではなく専門料理人、スーシェフ、シェフ級(職務レベル4~6)に該当することが条件です。
したがって、日本で専門的な調理経験を積んだ人材であることが前提となります。
また、ビザ申請時には調理師としての経歴証明(料理学校の卒業証明や在職証明など)や雇用契約書の提出が求められます。
雇用主はオランダ移民帰化局(IND)を通じて申請を行い、在日オランダ大使館での手続き(長期滞在ビザ発給=MVV取得)を経て渡航という流れが一般的です。
家族帯同の可否
調理師向け就労ビザを取得できれば、配偶者や未成年の子どもを帯同することも可能です。
オランダの制度では、有効な就労許可を持つ外国人はそのパートナーや子供の滞在許可をスポンサーできると定められています。
帯同家族は主たるビザ保持者と同じ期間オランダに滞在でき、配偶者についてはオランダ国内での労働も許可されるケースが一般的です(家族再会ビザには労働制限がないことが多いため)。
ただし、ワーキングホリデービザや季節労働ビザなど一時的な滞在目的のビザでは家族の呼び寄せは認められない点に注意が必要です。
なお、日本とオランダの間にはワーキングホリデー制度もあり、30歳以下であれば1年間の滞在中に就労が可能ですが、期間延長ができず長期就労には繋げにくいので、正規雇用を目指す料理人には上記の就労ビザ取得が現実的と言えるでしょう。
参考:
・yourlegals:経験豊かな移民弁護士と日本人スタッフがオランダへのビザ申請をサポートします!
・MYNTA LAW:The work permit for cooks in the Asian catering sector: the application at a glance
・octagon:オランダに家族やパートナーを呼び寄せるための許可証は?
・The NetherLands Life:仕事内容と働いてみて思うこと【オランダワーホリ】
4. オランダでの生活情報(物価・住居・食材入手・交通など)
海外で働くにあたり、現地での生活環境も重要な検討事項です。ここではオランダで暮らす上で知っておきたい物価水準や生活インフラについて概要を説明します。
物価・家賃
オランダの生活費は西欧諸国の中でもやや高めで、単身者の平均月間生活費は約€1,974(約30万円)と試算されています。
その内訳で最も大きな比重を占めるのが住居費です。特にアムステルダムなど大都市の中心部では家賃が高騰しており、1人暮らし向けアパートでも月€1,500~€2,000(約22万~30万円)程度の物件が珍しくありません。
郊外や地方都市に住めば家賃は下がりますが、それでもオランダ全体の住宅費平均は月€550程度とされています。光熱費や通信費も合わせると、毎月の固定支出はかなりの額になるため、給与から家賃補助が出るかどうかは交渉の際に確認しておくと良いでしょう。
日本食材の入手
オランダには比較的規模の大きなアジア食品スーパーマーケットが各都市にあり、日本の食材を手に入れることは概ね可能です。
アムステルダム近郊のアムステルフェーン市は日本人駐在員が多く、現地に日本食材店や日本人向けスーパー(例:「山本商店」など)も存在します。醤油や味噌、豆腐、緑茶、お菓子類まで日本と同じようなものが揃いますが、価格は輸入品のため日本国内価格の1.5~3倍程度と割高です。
魚については、オランダは北海に面し海産物は比較的安価で手に入りますが、刺身用の新鮮な魚種(マグロやハマチ等)は限られるため、必要に応じて冷凍物を取り寄せたりスペインなど他国から調達するケースもあります。米や海苔、麹調味料なども常備しておくと、日本の味を再現しやすくなるでしょう。
交通手段
オランダは公共交通と自転車インフラが発達している国です。
都市間の移動は鉄道が便利で、アムステルダム~ロッテルダム間は高速鉄道で40分ほど、地方都市へも鉄道網が行き渡っています。市内移動では自転車が生活の足として一般的で、専用道路が整備されているため安全かつ迅速に移動できます。
多くのオランダ人が自転車通勤・通学をしており、中古自転車であれば€100前後から購入可能です。公共バスやトラム(路面電車)も主要都市では発達しており、ICカード型乗車券「OV-chipkaart」で全国共通利用できます。
交通費は日本に比べ高めで、例えばアムステルダム市内のトラムは1時間券が€3前後、電車も100kmの移動で約€20程度かかります。通勤手当を支給する企業もありますので、勤務先がどの程度負担してくれるか確認しておくと良いでしょう。
医療・健康保険
オランダの医療水準は高く、ほとんどの医師が英語を解するため外国人でも安心して診療を受けられます。
ただしオランダでは国民皆保険制度がなく、全居住者に民間健康保険への加入が義務付けられている点に注意が必要です。健康保険料は月額約€100〜€130(年齢やプランによる)で、自己負担となります。
保険に加入すると診療費の大部分はカバーされますが、年に€385(2025年現在)の自己負担額(免責額)が設定されており、それ以下の医療費は自己負担となります。大きな病気や怪我をした際には高額になる可能性もあるため、加入後も予防医療(定期検診や歯科検診)を心がけることが大切です。
なお、日系企業に勤める場合は保険加入手続きや主治医(ハウスアーツ)の紹介などを会社がサポートしてくれることも多いです。
治安・生活環境
オランダは欧州の中でも治安が良いとされる国で、暴力犯罪発生率は低く抑えられています。
特に地方都市は穏やかで安全ですが、アムステルダムなど観光客の多い都市ではスリや自転車盗難などの軽犯罪が発生することがあります。深夜に繁華街を歩く際や、人混みでは貴重品管理に注意しましょう。
総じて、公共の場でも日本と同程度かそれ以上に安全に過ごせます。
またオランダ人は英語話者が多いため、緊急時にも英語で助けを求めることができます。気候は夏は涼しく冬は沿岸部で氷点下になることもありますが、住居には暖房が完備され断熱性も高いので生活上大きな問題はありません。
日本食レストランで働く場合、職場は都市中心部にあることが多いため便利な都会生活を送れますが、その分コストもかさむ点を念頭に置いておきましょう。
参考:
・Relocate.me:Cost of Living in the Netherlands
・expatica:The cost of living in the Netherlands in 2025
・Kikkoman:SPECIAL REPORT Vol.26 No.4 from Amsterdam
・WORLD POST:【ミシュラン1ツ星獲得】欧州トップクラスの和食堂で輝くシェフを求めています
5. オランダの職場文化と言語:日本との違いと注意点
異国で働く際には、現地の職場文化や働き方の慣習を理解することも重要です。
オランダのビジネス文化や労働観は日本と大きく異なる点が多々ありますので、主なポイントを押さえておきましょう。
労働観・ワークライフバランス
オランダは一般に仕事と私生活のバランスを重視する社会です。残業は最小限に抑えられ、定時で帰宅して家族や趣味の時間を持つことが奨励されます。
上司も社員に無理な残業や休日出勤を求めることは少なく、有給休暇の消化率も非常に高いです。一方、日本では長時間労働や会社への献身が美徳とされる傾向がありましたが、オランダではそれよりも効率的で創造的な働き方が称賛されます。休暇中に仕事のメールに即返信するようなことも求められません。
日本人料理人にとっては「もっとやれるのに…」と物足りなく感じる場面があるかもしれませんが、与えられた時間内で最大の成果を出し、あとはしっかり休むというメリハリが現地では主流だと心得ましょう。
職場の人間関係・コミュニケーション
オランダの職場はフラットな組織体系が特徴です。
上司と部下の距離が近く、たとえ社長であってもファーストネームで呼び合うようなカジュアルな雰囲気があります。意見交換も活発で、部下が遠慮なく上司に提案・反論することも日常茶飯事です。
これは「対等で開かれたコミュニケーション」を重んじるオランダ文化によるもので、日本のように年功序列や敬語で厳格に上下関係を示す習慣とは大きく異なります。このため、日本人が戸惑う点として、オランダ人同僚のストレートな物言いが挙げられます。
オブラートに包まずはっきり意見を言うため、最初はきつく感じるかもしれませんが、悪意はなく率直さを重んじているだけだと理解すると良いでしょう。
逆に、こちらも意見やアイデアがあれば遠慮せず主張する積極性が求められます。
「沈黙は美徳」ではなく自分の考えを伝えてこそ評価される環境であると覚えておきましょう。
言語:オランダ語と英語の必要性
オランダ人は幼少期から英語教育を受けており、国民の英語習得率が非常に高いことで知られます。
日常生活や職場でも英語が通じる場面が多く、特に都市部や国際的な職場では英語が共通言語となっています。日本食レストランの職場でもスタッフ間の会話やお客様対応は主に英語で行われることが一般的です。現地で働く日本人の体験談でも「お客様とのコミュニケーションは全て英語」と報告されており、最低限の英語力は必須といえます。
幸い、調理現場で使う専門用語はある程度決まっていますし、メニューも日本語がそのまま通じる場合(寿司・天ぷらなど)も多いため、実務で必要な英語は限定的です。
しかし接客担当者とのやり取りや生活面を考えると、日常会話レベルの英語には慣れておくことが望ましいでしょう。
なお、オランダ語については、出来ればベターという位置づけです。
多くの職場ではオランダ語が話せなくても問題なく勤務できますし、和食店の場合スタッフが日本人やアジア系で占められていることも多いため、日本語や英語で十分対応できるケースが少なくありません。実際、オランダのミシュラン星付き和食店「山里(Yamazato)」では調理スタッフのほぼ全員が日本人で占められており、業務上の主な使用言語は日本語です。
ただし、長期的に現地に定住する意思がある場合や、職場以外での地域社会に溶け込むにはオランダ語習得が役立ちます。特に現地の同僚との雑談や、常連のオランダ人客とのコミュニケーションでオランダ語が少しでも分かると信頼感が増すでしょう。仕事をしながら余暇に語学学校へ通う人もいるので、時間が許せば挑戦してみる価値はあります。
その他の文化的注意点:
オランダ人は時間厳守の傾向があり、約束の時間には正確です。
会議や打ち合わせは予定通り開始・終了することが多く、無断での遅刻や欠勤には厳しい目が向けられます。もっとも、日本人料理人にとって時間厳守はむしろ得意分野と言えるでしょう。
むしろ気をつけたいのは、有給休暇の取り方です。オランダでは夏に2~3週間の長期休暇をまとめて取る人が多く、レストランがバカンスで休業となる場合もあります。日本では長期休暇取得に罪悪感を覚える人もいますが、現地では当たり前の権利なので、遠慮なく休暇申請して問題ありません。
また、働き方において「ノーと言う勇気」も時に必要です。例えば無理な注文や自分の手に余る仕事は正直に厳しいと伝える方が信頼されます。「報連相」は万国共通ですが、日本人的な忖度はあまり意味を成さないので注意しましょう。
参考:
・The NetherLands Life:仕事内容と働いてみて思うこと【オランダワーホリ】
・海外求人.com:ヨーロッパで輝くチャンス:オランダのミシュラン一ツ星和食レストランが寿司職人を募集中!#462
・WORLD POST:【ミシュラン1ツ星獲得】欧州トップクラスの和食堂で輝くシェフを求めています
6. オランダで活躍する日本人料理人たち:事例紹介
実際にオランダで成功を収めている日本人料理人の事例をいくつかご紹介します。異国の地で奮闘する先輩たちの経験は、大きな励みや参考になるはずです。
ホテル・オークラ・アムステルダム「山里」総料理長 大島氏
アムステルダムの老舗高級ホテル「オークラ」内にある日本料理店「山里(Yamazato)」は、1971年の開業以来オランダにおける日本料理の草分け的存在です。
大島氏は1970年代から山里の厨房を率い、2002年に同店にミシュラン一つ星をもたらした名料理長です。着任当初、オランダでは生魚への抵抗が強く寿司刺身が敬遠されましたが、焼鳥や天ぷらなど親しみやすい料理から徐々に和食文化を浸透させたといいます。
大島氏のポリシーは「現地の食材で日本の味を再現する」ことで、オランダ産の魚や野菜を活用しながら日本の四季を感じさせる懐石料理を提供し続けています。
その功績が認められ、2012年には農林水産省より「日本食普及の親善大使」の称号も授与されました。山里で修行した若手日本人シェフが欧州各地に羽ばたいているというエピソードもあり、オランダにおける和食人材育成の礎を築いた人物と言えるでしょう。
寿司・懐石「Shiro」(デン・ボス) 三橋シェフ夫妻
首都圏以外でも、日本人料理人が地域に根ざした活躍をしている例があります。
南部の街デン・ボス(スヘルトーヘンボス)にある「ジャパンズ・レストラン Shiro」は、1989年に三橋ご夫妻が開店した和食店です。当時まだ欧州で本格和食店は少なく、Shiroは同市で2番目の日本食レストランとしてスタートしました。
寿司カウンターと懐石コースを提供する格式ある店で、「オランダでこれほど本格的な和食が味わえるとは」と各方面で高評価を得ています。経営は家族経営で、ご夫妻は共に日本出身。30年以上にわたり地元客に愛され、ミシュランガイドにも掲載される名店へと成長しました。
三橋シェフの丁寧な仕事ぶりと、日本流のおもてなし精神が欧州の地でもしっかり受け入れられている好例です。
寿司・割烹「Yama」(ロッテルダム) 山本シェフ
ロッテルダムで2020年代に話題となったのが、山本浩明シェフによる「Japanese Cuisine Yama」です。
わずか8席のみの隠れ家風おまかせ料理店ながら、開店から数年でミシュラン一つ星を獲得し大きな注目を集めました。山本シェフは東京・大阪での修業を経てオランダに渡り、伝統的な江戸前寿司や四季折々の会席料理を提供。そのクオリティは「予約が半年先まで埋まる」「ロッテルダムで最高の和食」と評されるほどで、在蘭日本人のみならず地元オランダ人の舌を唸らせました。
残念ながら山本シェフは2023年に店を閉め日本へ帰国しましたが、現地で培った経験を発信すべくYouTubeチャンネルを開設し、寿司飯の極意などを英語で公開するなど新たな形で和食の魅力を世界に伝える活動を続けています。
その他の活躍例
上記の他にも、オランダ各地で日本人シェフが活躍しています。
フローニンゲンの「Hanasato」は東京出身のシェフが開いた和食店で、同地唯一の日本料理店としてミシュランガイドにも紹介されています。また、寿司ケータリングやラーメン屋台で成功する若手も出てきており、SNS上で現地ファンを獲得している例もあります。
さらに、オランダ人経営ながら日本人シェフが厨房を任されているケースも多々あります。例えばアムステルダムの創作和食ダイニングでは日本人セカンドシェフが味の要を支え、現地メディアに「隠れた名職人」として取り上げられたりしています。
総じて、オランダで働く日本人料理人は増加傾向にあり、それぞれが独自のスタイルで和食の魅力を広めています。
これら先達の事例から学べるのは、「日本で培った高い技術と情熱があれば、オランダでも十分に評価され活躍できる」という点です。
また同時に、現地の嗜好に合わせた柔軟な発想(例えばオランダ産食材の活用や新メニュー開発)や、情報発信力(SNSやメディア対応)も成功のカギとなっています。先輩方の軌跡を参考に、自身のキャリアプランを描いてみてください。
参考:
・Kikkoman:SPECIAL REPORT Vol.26 No.4 from Amsterdam
・japanesefoodieguide:Traditional Japanese course and à la carte
・tripadvisor:Shiro Japans Restaurant
・hanasato:JAPANS RESTAURANT HANASATO
7. オランダにおける日本食市場の評価と今後の展望
最後に、オランダ国内での日本食の評価と、日本食市場の将来性について展望します。
結論から言えば、オランダにおける和食人気は今後も堅調に拡大が見込まれ、日本人料理人にとって活躍の場はさらに広がるでしょう。
オランダ人の日本食に対する評価は総じて高く、「ヘルシーでクオリティが高い料理」というイメージが定着しています。
寿司や刺身は新鮮な魚介と丁寧な仕事ぶりが好まれ、ラーメンやカレーライスといった庶民的なメニューも「美味しくて健康的」と受け入れられています。2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたこともあり、ヨーロッパ全体で和食ブームが広がる中、オランダも例外ではありません。
現地スーパーでは寿司や餃子の冷凍食品・惣菜が販売されるようになり、一般家庭でも手軽に和風の味付けを楽しむ人が増えています。
市場規模の拡大
欧州全体で見ても日本食レストラン市場は堅調に成長しています。
ある調査によれば、欧州の日本食レストラン市場規模は2024年時点で約37.7億ドルと推計されており、今後年率3.17%で成長し2032年には約48.3億ドルに達する見込みです。この成長を牽引する主因はやはり寿司人気の拡大であり、健康志向の高まりや日本食のヘルシーなイメージも追い風になっています。
オランダ国内でも都市部を中心に新規和食レストランの出店が続いており、既存店もデリバリー対応やビーガンメニュー導入など創意工夫で集客を図っています。
今後の展望
さらなる市場拡大に伴い、和食の多様化が進むと予想されます。
従来の寿司・天ぷらに加え、地域のニーズに合わせた創作和食やフュージョンにもチャンスがあります。例えば和牛や日本酒といった高級食材への関心も高まっており、鉄板焼きステーキ専門店や酒ペアリングを提案する居酒屋など、新たな業態も十分成功し得る土壌があります。
またテイクアウトやデリバリー需要にも対応した寿司テイクアウト専門店、ゴーストキッチン形態の和食業態も増えるでしょう。テクノロジー面では予約アプリや宅配アプリとの連携が進み、SNSでの口コミが集客に直結する傾向も強まっています。
日本人料理人としては、こうした流れに敏感に対応しつつ、本物の味とサービスで勝負できれば大きな強みとなります。
一方で、課題もいくつか指摘されています。
オランダでは良質な和食材(特に鮮魚や特殊調味料)の安定確保や、現地人スタッフへの技術継承が引き続きの課題です。また寿司・ラーメン店の数が増え競争が激化する中で、差別化戦略も求められるでしょう。現地の嗜好に合わせつつも日本の伝統を守る、そのバランス感覚が重要です。
幸い、日本人シェフの繊細な技やおもてなしは依然として強い武器であり、「本場の職人がいる店」というだけでブランド価値になります。加えて、オランダ政府のアジア人材受け入れ施策が継続・拡充されれば、より多くの日本人料理人が活躍できる可能性も高まります。
総じて、オランダの和食市場は明るい未来が期待できます。
日本食は健康志向や異文化への関心の高まりと相まって、もはや一時的なブームではなく定着した食文化の一部となりつつあります。日本人料理人にとって、オランダは自らの技を試し磨く絶好のフィールドと言えるでしょう。
伝統を守りつつ革新を取り入れ、現地の人々に愛される店作りに挑戦することで、きっと大きなやりがいと成功を掴めるはずです。
ぜひ本記事の情報を参考に、オランダでの新たな一歩を踏み出してみてください。現地での活躍を心より応援しています。
参考:
・Data Bridge:Europe Japanese Restaurant Market Size, Share, and Trends Analysis Report – Industry Overview and Forecast to 2032