サウジアラビア就職ガイド:和食・寿司職人向け
1. 市場の特徴・外食産業の状況
サウジの外食市場は中東最大級で、経済多角化策(Vision 2030)の下で急拡大しています。サウジ政府系データによれば、外食産業への消費支出は今後5年間で年率約6%増加見込みで、人口増(約1.8%)を上回る成長が期待されています。
観光ビザの導入や大型娯楽プロジェクトの進展に伴い、高級レストランやフードコートなど飲食業界全体が活況を呈しており、2025年の市場規模は約301億ドル、2030年には約447億ドルと予測されるなど成長余地が大きいことが報告されています。この背景には都市部のインフラ整備や女性の就業機会増加もあり、ファストフードから高級ダイニングまで幅広い店舗が拡充中です。
2. 和食や寿司の人気や傾向
近年、和食・寿司への関心も高まりつつあります。現地では寿司や刺身など本格和食よりも「日本風」を取り入れた融合料理が好まれ、特に串揚げ(フライド寿司)や麺類が人気です。日本食研修に当たったシェフによると、多くのサウジ人は「揚げ物寿司(deep-fry)」を好む傾向が強く、次いで新鮮な刺身類を求める層がいます。
和食はまだ途上段階ですが、サウジ政府が和食文化の普及に力を入れているほか、現地メディアでも日本食イベントや寿司ワークショップの話題が増えており、地元企業や富裕層の日本食需要も拡大傾向にあります。サーモンやマグロなどは既に人気で、ゆずペッパーなど日本の風味も受け入れられています。
3. 求人の有無と職種
サウジでは和食専門店自体はまだ少数ながら、新規開店例や在サウジ日本人向け求人が出ています。例として、リヤドの親日家でプライベートシェフを募集する求人(年収約411万円)や、高級和牛レストランのエグゼクティブシェフ募集(年収658万~919万円)などが挙がっています。
また、旅行者向け・富裕層向け施設の進出に伴い、寿司職人や和食料理長、料理長(エグゼクティブシェフ)、プライベートシェフなどの求人が確認されています。料理長クラスでは大型店の立ち上げやメニュー開発を担うケースが多く、寿司専門店から鉄板焼店、総合和食店まで職種は幅広い状況です。和食エージェントの求人例では「ジャパニーズファインダイニング」の料理長(勤務地:ジェッダ)なども掲載されており、ファインダイニング系和食店舗での立ち上げ要員募集が行われています。
4. 給与水準(現地月給・待遇)

シェフの給与は経験や職位によって大きく異なります。Glassdoorのデータではサウジの一般的な調理師(Chef)の月給中央値は約6,000サウジ・リヤル(約22万円)とされています。一方、料理長やヘッドシェフなど上級職ではより高額で、求人例では月給US$3,500~5,000(約40万~55万円)という報告があります。実際の求人では年俸で400万~900万円クラスが見られ、福利厚生として住宅補助・医療保険・ビザサポート・渡航費支給が付くケースが一般的です。
サウジは所得税がないため手取りが高い点も魅力で、上記求人では会社負担で住居や医療保険が提供されています。総じて、現地水準で和食料理長クラスなら月30万~50万円程度(手取り)を狙える一方、アシスタントや調理スタッフでは20~30万円程度が多いようです 。
5. ビザ取得の条件や注意点
サウジで就労するには企業スポンサーによる就労ビザ(Employment Visa)と、その後の居住許可(イカーマ)が必要です。就労ビザは短期プロジェクト用の「臨時就労ビザ」(90日・複数入国可)と、1~2年有効の「就労(イカーマ)ビザ」に大別されます。雇用企業がスポンサーとなり、労働省への申請や外務省認証を経てビザ発給を受けます。主な提出書類は、企業からの招聘状・雇用契約書(商工会・外務省証明付)や学歴・資格証明(教育使節団認証付)、健康診断結果(伝染病検査済み)、無犯罪証明などです。
ビザ申請の流れは、まず企業が労働省に登録・許可を得てビザ申請し、承認後に外務省からビザ発行承認番号を受け取ります。その後は在外サウジ大使館でビザを取得し、入国後90日以内にイカーマを申請します。ビザ・イカーマ申請には企業側負担で概ね7,200~8,400SAR(約20~25万円)の費用がかかります 。なお、要件や手続はやや煩雑なため、専門エージェントを通じたサポートが一般的です。
6. 求人を見つける手段
和食・寿司職の求人は、日本語サイトの活用が効果的です。専門エージェントの「和食エージェント」や求人サイト「Washokujob」ではサウジ案件も掲載されており 、求人情報を検索できます。現地大手求人サイトではGulfTalent、NaukriGulf、Indeed、LinkedInなどでも「Chef」「Japanese cuisine」等で検索できます。和食・寿司に特化した斡旋ではJAC Recruitmentやリクルート系の海外求人サービスも利用価値が高く、サウジ就労実績のある企業を狙うのが一般的です。また、サウジ国内のレストラン公式サイトやSNS、現地日本人会などネットワークでも情報収集が可能です。
7. 採用難易度・求められるスキルや経験
採用基準は比較的高めで、プロフェッショナルな調理技術とマネジメント能力が求められます。多くの求人では「100席級ファインダイニングの料理長経験」「調理師免許所有」「チーム指導力」「日常会話レベル以上の英語力」が必須とされています。英語は社内公用語のため、日本語のみでは難しく、コミュニケーション力が重要です。加えて、サウジ化(ニタク/Saudization)政策により将来的には幹部職(ホテルマネージャーや上級シェフなど)でサウジ人雇用が優先される可能性もあります。ただし、現在は和食人材は対象職種外のようで、専門技能人材への需要が残っており、経験豊富な和食職人にはまだチャンスがあります。
8. 和食人材に期待される役割
現地では日本料理人には単なる調理だけでなく、メニュー開発やキッチン運営管理、現地スタッフの教育・指導といったマネジメント能力が期待されます。例えば料理長ポジションでは「メニューの開発」「厨房オペレーション構築」「スタッフ教育」「仕入れ管理」「原価管理」など業務範囲が広く設定されています。
また日本政府による「和食親善大使」の活動のように、現地シェフへの技術研修・文化交流も重要な任務です。実際、現地では日本政府と連携して日本の料理技術を教授する試みが進んでおり、多くのサウジ人シェフが和食技術の習得に意欲を示しています。要するに、和食人材は料理人という枠を超え、技術伝承、メニュー開発、新規店舗立ち上げ支援、店舗マネジメントなど多面的な役割を担うことが求められています。
9. 現地での生活環境や文化面の注意点
サウジアラビアはイスラム教国であり、文化・宗教慣習に配慮が必要です。まず 飲酒は禁止であり、公共の場でアルコールを摂取すると重罰の対象になります 。また食材はすべてハラールで、豚肉やアルコール由来成分はメニューに使えません。服装面では、外国人女性はアバヤ(黒衣装)の着用義務は撤廃されましたが、公共の場では肩と膝を隠すなど節度ある服装が求められます。
加えて多くの店舗で「男性席/家族席(家族連れ・女性同伴用)」が分かれており、店員の指示に従って行動します 。1日に5回ある礼拝時間帯には商店や施設が一時閉鎖されることがあり、飲食店も夕方にオープンする場合が多いです 。ラマダン(断食月)は特に注意で、日中の飲食が厳しく制限され、店舗運営時間が大幅に変則化します。治安は政府の警備が強化されており比較的安定していますが、一般的な防犯意識(車上狙い、スリに注意)も必要です。
10. 和食職人としてのキャリア形成や将来性

サウジの飲食産業はVision2030の中核分野の一つと位置づけられ、今後も高い成長が見込まれます。食品サービス市場は2025年~2030年で年率8.2%で成長し、規模は400億ドル超に達すると予測されています。実際、2025年には外食セクターが前年比15%成長し、新規レストラン開業で数百件の雇用が生まれています 。こうした環境下、今後も熟練シェフの需要は堅調に推移するとみられます。
外国人和食シェフとしてのキャリアは、現地での指導経験や新店立ち上げ経験を積むことで高評価につながり、将来的にはマネージャーやコンサルタントとして重用される可能性もあります。また、サウジ国内の都市開発(例:NEOMなどの巨大プロジェクト)には高級ホテル・リゾートが含まれており、和食への関心も拡大すると期待されます。国際的なレストランチェーンや高級和食店の進出が続けば、相応にキャリア選択肢も増え、長期的には和食職人にとって中東市場での専門性を高めるチャンスが広がるでしょう。
参考資料: SAGIA、Arab News、Glassdoor、外務省、和食業界専門サイトなど など。