なぜ海外で本物の日本人料理人が足りないのか:公的統計で見る需要と供給(2026年)
店が増える速さに、料理人の数が追いついていないからです。農林水産省の調査では、海外の日本食レストランは2013年の約5.5万店から2023年の約18.7万店へ10年で3.4倍になりました。一方、日本で調理師免許を新たに取る人は同じ時期に46.4%減り、日本の調理人の5人に1人は65歳以上です。
日本の厨房で修業した料理人は数が限られ、高齢化が進み、大半は日本に残り、海外へ出るには国ごとに狭まりつつあるビザの道を通る必要があります。この記事では公的な数字を並べ、「本物」とは何かを整理し、海外の店のオーナーが現実にできる手を挙げます。数字はすべて政府の出典にリンクしています。
海外の日本食レストランはどれくらい増えましたか?
農林水産省は外務省の協力で2年ごとに海外の日本食レストラン数を公表しています。2013年の約5.5万店から2023年には約18.7万店に増え、2025年は約18.1万店と調査開始以来初めて減りました。農水省は主な理由を、中国経済の停滞に伴うアジアの約1割減としています。この調査は日本食を出す店を、経営者や料理人の国籍を問わず数えたものなので、測っているのは「日本食の需要」であって日本人料理人の数ではありません。
2025年の地域別:アジア 約11.2万店(2013年は約2.7万店)、北米 約2.9万店(2013年は約1.7万店)、欧州 約1.9万店(2013年は約6,700店)、中南米 約1.5万店(2013年は約2,900店)、大洋州 約2,800店(2013年は約700店)、中東 約1,600店(2013年は約250店)、アフリカ 約800店(2013年は約150店)。アジア以外は今も増えており、北米・中南米・大洋州・中東・アフリカは2023年から2025年の間も店が増えました。出典:農林水産省 プレスリリース 2025年11月28日、推移グラフ(PDF)。
需要の一部は文化的なものです。2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録され、その後の10年で店の数は3倍以上になりました。
日本で修業した料理人はどれくらいいて、どんな人たちですか?
2020年の国勢調査では、職業が「調理人」の人は1,822,470人です。ラーメン店からホテルの厨房まで、料理の種類を問わない数字です。そのうち20.5%が65歳以上で、日本の全就業者の15.2%より高く、30歳未満は17.5%しかいません。国勢調査は和食とそれ以外を分けていないので、これが和食の料理人が出てくる母集団の全体です。
入ってくる人も減っています。厚生労働省は調理師免許の年間交付数を記録しており、2009年度の42,522件をピークに2024年度は22,771件、46.4%の減少です。調理師免許は料理をするのに必須ではありませんが、学校か試験を通ってこの仕事に入る人を国が数えた唯一の統計です。
出典:総務省統計局 2020年国勢調査 表9-1-1(職業×年齢)、厚生労働省 調理師免許交付数の推移(PDF)。
この数字から言えることは2つです。日本の厨房で何年も修業した料理人は数が限られ、すぐには増えないこと。そしてその大半は日本から出ないことです。シンガポール、ロンドン、ロサンゼルスの店は、「出る意思があり、出られる」わずかな人たちを取り合っています。
修業した料理人がなかなか海外に出ないのはなぜですか?
壁は主に3つで、いずれも裏付けのあるものです。
- ビザ。料理人は自分の意思だけでは移れず、雇用主が就労ビザを申請する必要があります。そのルールは複数の国で厳しくなりました。イギリスは2025年7月から料理人の新規のスポンサーを止め、アメリカは日本とワーキングホリデー協定がなく、シンガポールは Employment Pass に年齢別の最低給与があります。アメリカ・イギリス・シンガポールの採用ガイドに、各国政府のページを出典として載せています。
- 給与と生活費。料理人は提示額を、日本での収入と、その街の家賃と比べます。現地では良く見える額でも、住居費を引くと手取りが減ることがあります。海外で日本人料理人を雇うときの給与相場に、国別の募集額の幅をまとめています。
- 言葉と家族。日本で修業した料理人の多くは英語に自信がなく、家族がいる人も少なくありません。海外への移動は本人だけでなく家庭として成り立つ必要があり、候補はさらに絞られます。
定着の問題もあります。渡航しても1年以内に辞める料理人がいると、不足は頭数以上に深刻に見えます。理由の多くは雇用主側で直せるもので、日本人料理人が海外で1年以内に辞める7つの理由にまとめています。
「本物の日本人料理人」とは何ですか?
本物かどうかを決める免許はありません。実際には、日本の厨房で料理長のもと、寿司・懐石・割烹・天ぷら・ラーメンなどひとつの系統を何年も修業し、その水準で厨房を回せる料理人を指します。採用側はそれを経歴で確かめます。どの店で、何年、どの持ち場か。
日本政府にはひとつだけ公式の制度がありますが、対象は外国人料理人です。農林水産省の海外における日本料理の調理技能認定制度はゴールド・シルバー・ブロンズの3段階で、ゴールドは日本国内の日本食店で5年以上の実務と日本で行う試験、シルバーは1年程度のコース修了か2年以上の実務、ブロンズは短期講習と試験が条件です。2026年3月31日時点で認定者は世界で3,976人、うちゴールドは28人。約18.1万店という数に対して認定の層がいかに薄いか、そしてなぜ多くのオーナーが紙ではなく経歴で採用するのかが分かります。
店のオーナーにできることは何ですか?
道は4つあり、多くの店は2つを組み合わせています。
- 雇用主がビザを申請して日本から採用する。探し始めてから着任まで3〜6か月かかりますが、修業を終えた料理人が来ます。提示額がビザの基準と本人の比較の両方を超えるよう、国別ガイドと給与相場から始めてください。
- すでに国内にいる料理人をワーキングホリデーで雇う。協定のある国(オーストラリア・カナダ・イギリス・フランスなど)では早くて安いですが、滞在期間や同じ雇用主で働ける期間に上限があります。詳しくはワーキングホリデーで日本人料理人を雇うには。
- 現地の料理人をひとつの系統で育てる。副料理長を日本の短期講習に送る、または日本から料理人を期間を決めて呼び、基準を作ってチームを教える。農水省の認定制度は、外国人スタッフの外部の目安になります。
- 今いる料理人に残ってもらう。いちばん安い料理人は、辞めない料理人です。住まいの支援、役割の明確化、現実的な最初の1か月で、1年目の離職の大半は防げます。1年以内に辞める7つの理由を参考にしてください。
よくある質問
なぜ海外で本物の日本人料理人が足りないのですか?
需要が供給よりはるかに速く増えたからです。海外の日本食レストランは2013年の約5.5万店から2023年の約18.7万店に増えた一方(農林水産省)、日本の厨房で修業した料理人は数が限られ高齢化し、大半は日本に残ります。イギリスなどで厳しくなったビザ、日本と比べた給与、言葉と家族が、海外に出る人の割合を小さくしています。
不足は悪化していますか?
需要側では、農水省の店舗数は2013年から2023年まで毎回増え、2025年に初めて減りましたが、減ったのはほぼアジアだけで、南北アメリカ・欧州・大洋州・中東では増え続けています。供給側では、調理師免許の交付数が2009年度から2024年度に46.4%減り、働き手は高齢化し、イギリスは2025年に料理人の新規スポンサーを止めました。公的な数字の中に、修業した料理人の供給が増える要素はなく、差は自然には縮まりません。
日本から料理人を採用するのにどれくらいかかりますか?
雇用主が就労ビザを申請する場合、探し始めてから着任まで3〜6か月が目安で、時間の大半はビザにかかります。協定のある国でのワーキングホリデーの採用なら数週間で始められます。和食エージェントは候補者探し、通訳付きの面接、雇用主と進める書類手続きを担当します。
海外で日本人料理人を雇うときの給与相場(6か国) →日本人料理人が海外で1年以内に辞める7つの理由 →ワーキングホリデーで日本人料理人を雇うには →海外で日本食レストランを開くための費用チェックリスト →おまかせの値付けの決め方 →


